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【作品名】ゼロの使い魔 【ジャンル】ライトノベル 【名前】ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 【属性】虚無の使い手 【大きさ】153cmぐらいの16歳女子 【攻撃力】多少鍛えた年齢相応の少女並み、教鞭サイズの杖所持 【防御力】人間サイズの(勘違いするなよ、人間の拳じゃねーぞ。ルイズの身長に直径が匹敵するサイズだぞ)の石の拳で 才人もろとも石の壁を貫く勢いで殴り飛ばされても戦闘続行可能。 【素早さ】多少鍛えた年齢相応の少女並み 【特殊能力】 虚無の特性で何を唱えても爆発する。自分を巻き込まないように撃てる。 8巻では二言で人間大の人形を破壊する威力は出していた。 エクスプロージョン:虚無の呪文 発動には以下の詠唱が要る 「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ・オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド・ベオーズス・ユル・スヴュエル カノ・オシェラ・ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル」 詠唱終了後に杖を振ることで光の球が発生、視界を覆い尽くすほどまで巨大化して それに巻き込まれた200mの空中戦艦(木造)及びその護衛艦を炎上・墜落させた 破壊力は約25mの鉄製の騎士人形を爆破できるが、タイガー戦車の主砲には全く敵わない(らしい)。 魔法による障壁を貫通して本体を直接攻撃できる 上記の戦艦の乗組員は無事だったが、呪文の性質については 「巻き込む。すべての人を。自分の視界に映る、すべての人を、己の呪文は巻き込む。 選択は二つ。殺すか。殺さぬか。破壊すべきは何か。」とあるので射程は視界内全てで、対象を選ぶことができるようだ あと、膨大な精神力を使うため基本的には一発限り 【長所】一部の読者からの人気が凄い。 【短所】貧乳。嫉妬深すぎ。詠唱が長い。 【戦法】速攻で逃げつつ二言の呪文を唱える。 死なないようなら「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ・オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド・ベオーズス・ユル・スヴュエル カノ・オシェラ・ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル」を唱える。 【備考】苗字より後はめんどくさいからランクインした時は外していいよ 【参考】ちなみにモデルは↓の人物。非常に華奢で、片足が不自由だったらしい。 http //ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%AB 参戦vol.3 375,401 vol.3 430 :格無しさん:2011/03/27(日) 21 48 31.63 ID 5F7h30TB ルイズ修正版考察 ○:リリーナ>杏本詩歌>平沢唯 反応でやや勝っているので爆殺勝ち ○:藤林杏 同上。 ×:南春香 反応でやや負けている。微妙だが刺殺負けか。 ○:清浦刹那 反応でやや勝っているので爆殺勝ち。 ○:桜野タズサ 一発ではやられないだろうし爆殺勝ち。 これより上の鍛えた鈍器持ち相手は厳しい。安定して勝てるのはここまでが限度か。 南春香>ルイズ>清浦刹那=藤林杏 vol.5 376 名前:格無しさん[sage] 投稿日:2012/01/23(月) 00 27 04.47 ID 2/XEAsuH ルイズ再考 石壁を貫く攻撃に耐えるのでもう少し上のはず ○:~伊勢谷緋華 耐えてエクスプロージョン勝ち ×:川崎明日香 ボコられ負け ○○○○:向坂環>桜井さくら>丸井ふたば>上原 耐えて爆発勝ち ○:エステル 爆破しまくって勝ち ×:ニャルラト先生 一撃で倒され負け ○:来栖川 綾香 耐えてエクスプロージョン勝ち 戦うヒロインの壁上へ ○*6:神奈備命~竜宮レナ 耐えてエクスプロージョン勝ち ×:河原桜 パンチ負け ○:涼宮ハルヒ(やる夫) エクスプロージョン勝ち ×:毛利蘭 蹴り負け さすがに車相手は無理だろう。 河原桜>ルイズ>涼宮ハルヒ(やる夫)
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 深い霧に包まれたラ・ロシェールの街は、未だ日も出ぬ時間から多くの人たちが出入りしていた。 狭い山道を挟むようにして作られた総人口およそ三百人程度の小さな町に、立派な装備を身にまとった王軍の貴族たちが入っていく。 彼らは皆馬や使い魔であろう幻獣に跨り、その後をついていくかのように護衛の騎士達が町の入口であるアーチをくぐっていく。 『ラ・ロシェール!小さなアルビオンの玄関へようこそ!』 風雨に晒され殆ど読めなくなったアーチの看板には、そう書かれていた。 そのアーチをくぐって街の中へ入っていくトリステイン王軍の将校達とは反対に、街の中から平民達が身軽な格好で出ていこうとしている。 老若男女な彼らの大半は私服姿で何も持っておらず、中には軽い手荷物をもった者がチラホラといるだけだ。 一時間前に突如王軍が街へと入ってきて、町に住む者達全員に避難命令が出されたものの、その詳細をしる者は誰一人としていない。 ある家族は足腰の弱った祖父や祖母の肩を担ぎ、またある乳飲み子はぐずって母親を困らせている。 「一体どうなってやがるんだ?こんな朝っぱらから避難命令だなんて…」 「だな。貴族様の考える事はようわからんさ」 何人かの平民は道の真ん中を堂々と行く王軍の将校や騎士たちを横目で見ながら、小声でボソボソと愚痴を呟いている。 最も、それは町に居を構えている貴族たちも同じであり、横暴な王軍に対しての不満を口にしている。 無論王軍貴族達の耳には入っていないであろうが、今彼らの耳に聞こえてたとしても無視していたに違いない。 彼らは皆、これからラ・ロシェール上空に現れるであろう゛敵゛を待ち構えなければいけないからだ。 ラ・ロシェールから少し離れた所にある広大な、草原地帯。 普段は近隣にあるタルブ村から放牧された牛や羊たちが草を食んでいるであろう場所。 その上空には今、旧式艦の多いトリステイン軍の艦隊と神聖アルビオン共和国の精鋭艦隊が両者向かい合う形で浮遊している。 両艦隊とも距離を取るような形で待機し、トリステインがアルビオンを、アルビオンがトリステインの艦隊を監視していた。 霧のせいでラ・ロシェールからはその光景を見ることはできず、町の人々は何も知らされずに出ていこうとしている。 自分たちのすぐ傍で、今正に撃ち合いを始めるかもしれない艦隊を尻目に自国の王軍への愚痴を漏らしながら…。 ラ・ロシェールの中心部。そこに建てられている、町の中では一際グレードの高い高級ホテル。 貴族専用のその宿泊施設はつい先ほど軍が接収したばかりで、今は臨時の王軍司令部として使われようとしている。 今はシーズンオフという事もあってか宿泊していた貴族も一、二人と少なく、支配人や従業員達と共に避難している最中であった。 その元ホテルのロビーに数人の将校と共に入ってきたド・ポワチエ大佐が、地図を持ってきた騎士に声を掛けた。 「どうだ艦隊の状況は?」 「はっ!現在我がトリステイン艦隊が、アルビオン艦隊と接触したとの事です!」 騎士はテキパキとして口調でそう言うとロビーの真ん中に犯されたテーブルの上に、持っていた地図を勢いよく広げる。 タルブ村を含むラ・ロシェール周辺の細かい地図は、これから行うであろう゛戦゛を円滑に進める為のゲームボードであった。 その証拠に、別の方から小さな小箱を抱えてやってきた騎士が箱の中から艦船のミニチュアを取り出し、地図の上に置いていく。 ポワチエ大佐から見てタルブ側の方には青色、海側は赤色のミニチュアがコトリ、コトリと音を立てて配置される。 「タルブ側が我が軍の艦隊。そして海側は、レコン・キスタの゛親善訪問゛の大使を乗せた艦隊か」 同僚であり同じ大佐の階級を持つウインプフェンが、神経質な性格が見える顔で地図を睨んでいる。 ポワチエは彼の言葉に軽く頷くと、地図をテーブルに置いた騎士に「地上の゛演習部隊゛はどうなっている?」と訊ねた。 「はっ!現在ラ・ロシェール郊外で待機している゛演習部隊゛は準備完了し、艦隊からの合図を待っているとの事です!」 「そうか。…あくまでも今回の作戦はアルビオン軍艦隊の動きで状況が左右する。下手に動く事はするなと伝令を送っておけ」 その命令に騎士はハッ!と敬礼した後、ホテルの出入り口で待機している伝令を呼びつける。 伝令が駆け付ける様子をポワチエの後ろから見ていたウインプフェンがふん、と軽く鼻で笑った。 「たかが平民と魔法も録に使えぬ下級貴族だけの国軍に、重要な仕事を任せるのはいささか可哀想だと思わないか?」 「そう言うなウインプフェン。奴らとてあのゲルマニアから玩具を貰って、撃ちたくて仕方がないに違いない」 傲慢さを隠さぬ同僚の言葉にポワチエもまた、地図上の森林地帯を見てそう言った。 彼の顔にはウインプフェン同様、そこで待機している国軍に対しての軽蔑の笑みが浮かんでいる。 作戦が予定通りに進めば、国軍は先頭を切ってアルビオンの艦隊に奇襲を仕掛けて奴らの意表を突いてくれることだろう。 その後は自分たち王軍と艦隊が攻撃を受けて指揮が乱れた敵を一網打尽にすれば、全ては丸く収まる。 (無論手柄は、作戦の指揮を任された俺が優先的に受ける…よし、完璧だな) ポワチエは頭の中で今回の作戦のおおまかな流れを反芻していると、自然頬が綻んでしまう。 しかし、それが取らぬ狸の皮算用でもあると理解しているおかげで、すぐに頭を振って甘い考えを振り払った。 (…とはいえ、それは相手が動いた場合の事だ。俺が奴らなら、事を起こすような真似はしないが…) とにかく今は不可視の手柄よりも、目の前に見える作戦の指揮をどう取るのか考えるべきか。 そう判断した彼は、隣で今後の事について話し合っているウインプフェン達将校の話に加わろうとした…その時であった。 ホテルの外から突如として ドン! ドン! ドン! と凄まじい大砲の音が聞こえてきたのである。 その後に続くようにしてビリビリと建物ごと空気が揺れたかのような気配を感じたポワチエは、天井を見上げてしまう。 恐らく音の正体は、ここまで迎えに来てくれたであろうトリステイン艦隊を謝すためのアルビオン艦隊からの礼砲だろう。無論、弾は込められていない。 大砲に込められた火薬を爆発させただけの空砲であるが、音はともかく振動すら地上にいる王軍の身にも届いていた。 「今のは礼砲か?…にしてはやけに大きな音だったぞ」 ポワチエの疑問に、ずれたメガネを人差し指で直しながらウインプフェンが答えた。 「きっと敵の旗艦レキシントン号の空砲なのだろうが…確かに、聞いたことも無い程大きかったな」 彼の言葉にポワチエも思わず頷いてしまう。街から艦隊のある草原まで近いとはいえ、このホテルの中にまで大音量で響いてきたのだ。 相手のすぐ傍にいるであろうトリステイン艦隊の者たちは、さぞや船の上で後ずさったものであろう。 自軍の旗艦である『メルカトール』号に乗船しているであろう、司令長官のラ・ラメー侯爵の顔を思い出そうとした時であった。 先ほどの礼砲よりも音は小さいが、砲撃と分かる音が将校達の耳に入ってきた。 聞き覚えのある『メルカトール』号の砲撃音に、ポワチエはすぐに礼砲に対する答砲だと察した。 四発目、五発目、六発目…と答砲は続いたのだが、どうしたことか七発目で『メルカトール』号の砲撃音がピタリと止んでしまう。 「答砲が七発だけ?相手が大使を任された貴族なら十一発の筈だが…」 一人の将校が七発で終わった答砲に首を傾げると、何かを察したであろうウインプフェンが鼻で笑った。 「全く。ラ・ラメー侯爵もあのお年で良く意地を張れるものだ」 彼の言葉に他の将校達も『メルカトール』号に乗った司令官の意思を察して、軽く笑い出す。 トリステインと比べ、何もかも格上であるアルビオンの艦隊に負けるつもりはないという意思の表れなのだろう。 それを答砲でもって表明したであろう我が軍の司令長官は、なんとまぁ意地の強い男だろうか。 ポワチエもそんな彼らにつられて顔に笑みを作り、周りにいた騎士たちも心なしか笑顔になってしまう。 緊張した空気が張りつめつつあったロビーにほんのちょっと明るい雰囲気が入り込もうとした…その矢先であった。 入り口からドタドタと喧しい足音が聞こえ、その音の主であろう斥候が息せき切ってポワチエ達将校のいるロビーへと駆け込んできたのだ。 突然の事にロビーにいた全員が駆け付けた斥候へと視線を向けてしまう。 何事かと将校の誰かが言おうとする前に斥候はその場で片膝立ちとなり、ロビーに響き渡る程の大声で叫んだ。 「で、伝令!たった今、アルビオン艦隊の最後尾にいた小型艦一隻が…炎上しましたッ!」 「なんだ?どうした、事故か!?」 トリステイン軍艦隊旗艦『メルカトール』号の艦長であるフェヴィスが、信じられないという顔でアルビオン艦隊の最後尾を見つめていた。 隣にいるラ・ラメー侯爵も彼と同じ方向に視線を向け、炎上し始めた相手の小型艦を見ている。 甲板にいる水兵や士官たちもみな同様にそちらへと目を向けて、何が起こったのか理解しようとしていた。 遥か後方、アルビオン艦隊の最後尾で炎上しながら墜落する『ホバート』号。霧の中でもその甲板から立ち上る炎は見えている。 恐らく艦内に積まれていた火薬に火が回ったのだろう。甲板の火はあっという間に小さな艦艇を包み込むように燃え広がり、次の瞬間には空中爆発を起こした。 炎に包まれた『ホバート』号の残骸がゆっくりと草原へと落ちていく様は、とても現実の光景とは思えなかった。 突拍子無く炎に包まれ、そして呆気なく爆散した小型艦を見て『メルカトール』号の甲板にいた者たちは慌ててしまう。 「諸君落ち着け!我が軍の艦艇が爆散したワケではないぞ!!」 広がろうとしている動揺を抑えようと、ラ・ラメー侯爵が甲板にいる士官たちを叱咤する。 それで全員が落ち着いたワケではないが、実戦経験のある司令長官にそう言われた何人かの士官が落ち着きを取り戻した。 「手旗手はアルビオン艦隊へ状況説明を求めろ!各員はそのまま待機…手旗手、急げ!」 久しぶりに叫んだ所為か、ヒリヒリと痛み出した喉に鞭を打ちながら士官たちに指示を出した後、フェヴィス艦長が話しかけてきた。 「侯爵、今のは一体…」 「ワシにも分からん。恐らくは内部で何かトラブルが起こったとしか…」 艦長の疑問に率直な気持ちでそう返した時、望遠鏡でアルビオン艦隊を見つめていた水兵が「『レキシントン』号から手旗信号!」と叫んだ。 その水兵の口から語られたアルビオン艦隊からのメッセージは、彼らの予想を斜め上に逸れるモノであった。 「『レキシントン』号艦長ヨリ。トリステイン艦隊旗艦。『ホバート』号ヲ撃沈セシ、貴艦ノ砲撃ノ意図ヲ説明…セシ」 水兵は信じられないという目で望遠鏡を覗いてメッセージを読み終え、それを聞いていたラ・ラメー侯爵達も同じような表情を浮かべた。 撃沈?砲撃?…一体相手は何を言っている?あの船に乗っている連中は何も見ていなかったのか? 「奴らは寝ぼけているのか?どう見てもあの小型艦は勝手に燃えて、勝手に爆発したではないか…」 目を丸くしたフェヴィス艦長がそう言って『レキシントン』号へと視線を向け、ラ・ラメー侯爵は明らかに怒った口調で手旗手に命令を出す。 「手旗手!!返信しろッ!『本艦ノ射撃ハ答砲ナリ。実弾ニアラズ』だ、早くしろッ!」 司令長官からの命令で動揺が治っていない手旗手が慌てて言うとおりの信号を出すと、すぐさま返信が届いた。 その返信を望遠鏡で見ていた水兵は、今度はその顔を真っ青にさせながら読み上げる。 「た…タダイマノ砲撃ハ空砲ニアラズ。我ハ、貴艦ノ攻撃ニ対シ応戦セントス」 水兵が読み終えたところで、アルビオン艦隊が一斉に動き出し始めた。 先頭にいた『レキシントン』号が右九十度の回頭を行い、右側面に取り付けられたカノン砲を突き付けようとしている。 相手がこれから何をしようとしているのか、それは平民の子供にも分かる事であった。 「…ッ!?来るぞッ!取舵一杯!急げッ!!」 フェヴィス艦長が操舵手に命令を飛ばすと、空中で止まっていた『メルカトール』号が息を吹き返したかのように動き出す。 左の方へ回頭する『メルカトール』号へ向けて、一足先に準備を終えた『レキシントン』号が一斉射撃を行った。 しかし、この時回避行動を取ったことが幸いしたのか、砲弾は『メルカトール』号には着弾どころか掠りもしなかった。 『レキシントン』号から発射された砲弾はラ・ラメー侯爵達の遥か頭上を通り過ぎ、その内一発が『メルカトール』号の後ろにいた中型艦に着弾する。 木製の甲板が耳障りな音を立てて派手に割れ、飛び散った破片が周囲にいた水兵や士官たちへ容赦なく突き刺さる。 砲弾は勢いをそのままに船体を貫通して草原へと落ちていき、大穴の空いてバランスを失った中型艦が船首を下へと向けて落ち始めた。 「あそこまで届くのか…ッ!?」 後ろにいた僚艦が着弾から沈みゆく様を見ていたフェヴィスが、『レキシントン』号から撃たれた砲弾の威力に思わず目を見張ってしまう。 この霧のおかげもあるだろうが、もしも回避行動を取っていなかったら今頃『メルカトール』号がああなっていたかもしれない。 中型艦の乗組員たちが一人でも多く脱出できる事を祈りながら、フェヴィス艦長は相手の旗艦が恐ろしい化け物艦だとここで理解する。 そんな時であった、今まで黙っていたラ・ラメー侯爵が自分が乗船している艦と反対方向へと進み始めた『レキシントン』号を見て呟いた。 「艦長…どうやら奴らは我々と不可侵条約を結ぶ気など一サントも無かったらしい」 …そりゃそうでしょうな。侯爵から投げかけられた言葉に艦長は軽くうなずきながらそう言った。 何せ相手は自分たちの国へスパイを堂々と送り込んだうえで、仲良くしましょうと不可侵条約を持ちかけてきたのである。 更に追い打ちといわんばかりに、この出迎えの時に自分たちに無実の罪をなすりつけて攻撃を仕掛けてくるときた。 「恐らくは、我々トリステイン人を小国の者だからと侮っているのでしょうな」 艦長のその言葉に、侯爵は満足げな…それでいて静かな怒りを湛えた表情で頷いた。 「成程。真っ向勝負なら我々に勝てると算段を踏んで、こんなふざけた計略まで用意してくれたという事か」 そう言うと彼は自分たちの乗る艦と反対方向へと進んでいく『レキシントン』号を見やりながら、各員に命令を出した。 「全艦隊砲撃戦用意!曹長、地上の゛演習部隊゛に合図!!手旗手は黒板で敵旗艦にメッセージを伝えろ!」 艦隊司令長官からの命令にすぐさま各員が動き始め、手旗手がメッセージはどうするかと聞いてくる。 それを聞きたかったかのような笑みを浮かべたラ・ラメー侯爵は、得意気にメッセージを教えた。 「まさか、寸でのところで不意の一発を避けられるとは…」 アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号の甲板から望遠鏡を覗くボーウッド艦長は、残念そうな口調でそう呟いた。 仕留め損ねた敵の旗艦はこちらとは反対方向へ進んでおり、既に大砲の射程範囲内からは逃れられてしまっている。 後方にいたトリステイン軍艦隊も迅速な動きで旗艦の後に続き、こちらに対しての敵意を露わにしていた。 望遠鏡で除く限りには甲板上の敵は多少動揺しているものの、旗艦からの命令にしたがって攻撃用意を手早く済ませている。 それに対して、王政府打倒の際に多数の士官、将校を粛清された旧『ロイヤル・ソヴリン号』―――現『レキシントン』号の甲板には動揺が広がっている。 貴族派の連中が掻き集めたであろう水兵たちは、奇襲が失敗してトリステイン軍艦隊が動きだした事に慌てふためいていた。 本来ならそれを抑えるべき士官たちの大半も、部下たちの影響を諸に受けてしまって止めようのない事態になりかけている。 旧王軍の頃からいる士官たちは何とか統制を取り戻そうとしているが、時間が掛かる事は間違いないであろう。 だがその中でも、慌てすぎて錯乱の境地に達したであろう男がボーウッド艦長の隣にいた。 「えぇぃっ!!これは一体全体どうした事なのだ!我が艦の砲術士長は居眠りでもしておったのか!?」 この艦の司令長官であるサー・ジョンストンが、頭に被っていた帽子を甲板に叩きつけながら喚いている。 彼は今回計画されていた゛親善訪問゛―――否、トリステイン侵攻軍の全般指揮も一任されている貴族だ。 元来政治家である彼はクロムウェルからの信任も厚く、そのおかげで今回の件も任されたのである。 しかしボーウッド自身はどうにも、軍人でもない癖に司令長官の椅子に座っているこの男の事が気に入らなかった。 さらに言えば、元々王党派であった彼は軍人としてはともかく、個人としてこの゛親善訪問゛を装った攻撃には不快感さえ感じている。 (クロムウェルの腰ぎんちゃくめ…、司令長官の貴様が落ち着かねば兵たちも慌てたままなのだぞ) 彼は口の中でそう呟きながら粛清から逃れた士官に命令を飛ばそうとしたが、その前にジョンストンが噛みついてきた。 「艦長!何を悠々と艦を進ませておる!『メルカトール』号がもっと離れる前に新型の砲で叩き潰さぬかッ!!」 「サー、いくら新型の大砲と言えどこの距離を移動しながら攻撃するのは、砲弾の無駄というものです」 狂った野犬の如く喚きたてる司令長官の提案に、ボーウッドは至極冷静な態度でそう返す。 この男のペースに巻き込まれていたらまともに戦えん。それが今のボーウッドが下した、ジョンストンへの対応であった。 甲板では兵たちが慌てふためき、司令長官はごらんの有様…これで一体どう戦おうというのか。 「ひとまずは敵艦隊と一定の距離をとって、しかる後こちらの新型砲の強みを生かして各個撃破という形が最善ですが…」 ボーウッドは錯乱する司令官を落ち着かせようと、頭の中で練っていた即席の作戦を話そうとする。 しかし、そんな彼の落ち着いた態度が気に入らなかったのか、ジョンストンは「知るかそんなモノ!」と一蹴してしまう。 「そんな手間暇を掛けていたらトリステイン本国に我々の事が知れ渡るぞっ!?いいか、艦長! 私は閣下から預かった大事な兵を、トリステインに下ろさねばならんのだ!もしも時間を掛けて敵艦隊と戦っていたら… 報せを受けたトリステイン軍が地上軍を派遣して、我が軍の兵たちが地上に下り次第狩られてしまうではないか!!」 ジョンストンの甲高い、それでいて長ったらしい声でのご説教に流石のボーウッドも顔を顰めてしまう。 いっその事殴って黙らせた方が良いか?そんな物騒な事を考えていた時、二人の後ろから男の声が聞こえてきた。 「ご安心を、司令長官殿。貴方が思っているほどに、トリステイン軍の対応は速くはありませんよ」 この艦の上でボーウッド以上に冷静で落ち着き払った声に、彼とジョンストンは思わず後ろを振り返る。 そこにいたのは、金糸で縫われたグリフォンの刺繍が眩しいマントを身に着けたワルド子爵であった。 彼は名ばかりの司令長官であるジョンストンに代わり、アルビオン軍が上陸した際の全般指揮をクロムウェルから委任されている。 トリステイン人であり、魔法衛士隊のグリフォン隊隊長を務めていたという経歴も手伝ったのであろう。 異国人でありながら今のアルビオンの指導者に認められた彼の顔は、相当な自信で輝いて見えた。 「いくら数と質で劣るからと、トリステイン軍艦隊は貴方が思う程甘くはありません。 けれど奇襲を紙一重で避ける事が出来たとはいえ、アルビオン軍艦隊なら赤子の手を捻るよりも簡単に叩き潰せます」 ワルドが物わかりの悪い生徒を諭す教師の様な口調でしゃべっている合間にも、時は止まってくれない。 かなり距離を取ったトリステイン軍艦隊から威嚇射撃の砲声が響き渡り、それがジョンストンの身を竦ませる。 ボーウッドとワルドの二人も敵艦隊の方を一瞥し、射程範囲外だと理解してから説明を再開させた。 「仮にトリステイン軍艦隊が伝令を出したとしても、王軍がここへ辿り着くのにはどんなに急いでも数日は掛かるでしょう。 ラ・ロシェールや近隣の村を収める領主の軍隊などは論外、アルビオンの竜騎士隊だけでも潰せる数です」 トリステイン軍に属していた事もあってか、ワルドの説明を聞いてジョンストンも徐々に納得し始める。 しかし何か気にかかっていることでもあるのだろうか、ジョンスントンはワルドの話に頷きながらも「だが、しかし…」と何か言いたそうな表情を浮かべた。 だがワルド本人はそれを聞く気は全くないのか、貴方の言いたい事は分かります…とでも言いたげに肩を叩きながら話を続けていく。 「とにかく、ボーウッド艦長の考えている通りに戦っても我々には何の支障もありません。 今日中にトリステイン軍艦隊を壊滅させて、ラ・ロシェールに地上軍を上陸させる。たった二つだけです その二つをこなすだけで貴方はクロムウェル閣下から勲章を授かり、新しい歴史の一ページにその名を残せるのですよ?」 ゛クロムウェル閣下からの勲章゛と゛歴史に名を残せる゛という言葉を聞いて、ようやくジョンストンの顔に笑みが戻ってきた。 それでも未だに引き攣っているせいでどこか不気味な笑みとなっているが、気分が晴れてくれればこの際どうでも良い。 ワルドはそんな事を思いながら、戦場で無様な姿を見せる政治家の耳に甘言を囁いたのである。 「そ、そうか…そうなのか?」 今の状況で安らぎが欲しいジョンストンとは、縋るような声で耳触りのいい言葉を喋るワルドの両手を握った。 冷や汗塗れの冷たくて不快な手に握られた感情を顔に出さず、ワルドは「えぇ、そうですとも」と答える。 「ですから、今は長官室に戻って落ち着かれてはどうでしょうか?何ならエールの一口でも飲んで―――――」 ほろ酔い気分になってみては?…そこまで言う前に、『レキシントン』号の手旗手が「『メルカトール』号からメッセージです!」と叫んだ。 ボーウッドが誰からだ!と聞くとと手旗手は「黒板での伝言!トリステイン軍艦隊司令長官のラ・ラメー侯爵からです!」と答える。 「ほう、ラ・ラメー侯爵ですか。実戦経験のあるお方で、素晴らしい人ですよ」 「その素晴らしい人の命も後僅かだがな…で、メッセージは何と書かれてある!!」 懐かしい名前を耳にしたワルドが感慨深げにそういうのを余所に、ボーウッドは手旗手に聞く。 望遠鏡を覗く手旗手は時間にして約二秒ほど時間を置いて、『メルカトール』号からのメッセージを読み上げた。 「トリステイン王国ヲ舐メルナヨ。一隻残ラズ、空ノ木屑ニシテクレルワ。コノエール中毒者共」 手旗手が双眼鏡越しにメッセージを読み終えた直後、距離を取られた『メルカトール』号の甲板から照明弾が三つ上がった。 打ち上げ花火用の筒から発射されたソレは霧の中では眩しく見え、『レキシントン』号にいる者たちの目にもハッキリと見えている。 照明弾は一定の高さまで昇ってから、緩やかな弧を描いて地上へと落ちていき、やがて光を失って消滅していった。 『レキシントン』号や他のアルビオン軍艦隊の水兵たちは、その儚い光に何か何かと目を奪われてしまっていた。 ようやく落ち着きを取り戻した士官の貴族たちは、「持ち場へ戻るんだ!」と杖を振り回しながら叫びだす。 その様子を耳で聞いているボーウッドは、唐突な照明弾に怪訝な表情を浮かべておりジョンストンも似たような顔になっている。 ただ一人、ワルドだけは先程の照明弾と手旗手から伝えられたメッセージに関係があるのではないかと察していた。 今アルビオン軍艦隊が進んでいる先の地上にはラ・ロシェール郊外の森林地帯が広がっている。 霧は出ていものの照明弾の光は思った以上に眩しかったから、地上でも視認しようと思えば出来るはずだ。 (地上に向けて落ちていった照明弾…それに先ほどのメッセージと前方に見える森林地帯―――――――…まさかッ!?) ワルドが何かに感づいた同時に、同じ事を予感したであろうボーウッドが目を見開いて叫んだ。 「各員何かに掴まれ!!敵の攻撃は下から来るぞッ!!」 ボーウッドが叫び、ワルドと共にその場で姿勢を低くした瞬間―――――― 艦隊の進む先に見える森から先程の照明弾以上に眩い光りが発生し…直後、凄まじい砲撃音が地上から響き渡った。 それと同時に森の中から計二十発近い砲弾が発射され、アルビオン軍艦隊はその砲弾と鉢合わせする事となってしまう。 地上からかなり離れているにも関わらず打ち上げられた砲弾の内一発が小型艦の船底を貫き、その先にあった風石貯蔵庫を瞬時に破壊する。 別の中型艦は火薬庫に一発直撃を喰らい、かなりのスピードを出したまま炎上し、船員たちが脱出する間もなく空中爆発を起こした。 先ほど自作自演で潰した『ホバート』号よりも派手な爆発な起こした僚艦を見て、ボーウッドは思わず冷や汗を掻いた。 彼の記憶の中では少なくともこの高度まで砲弾を飛ばせる大砲など、トリステイン軍は所有していなかった筈である。 一体どうして…ボーウッドはそこで頭に貼り付こうとした余計な疑問を振り払い、優先すべき別の疑問を思い浮かべた。 (イヤ!今はそんな事を考えている場合ではない。問題はたったの一つ…トリステイン軍は最初から我々を待ち伏せていたという事だ) 彼は苦虫を噛んでしまったかのような表情を浮かべながら腰を上げて、周囲を見回してみる。 先程の砲撃で一隻失い、更に被弾した小型艦も甲板から凄まじい炎を上げて船首を地面へ向けて落ちようとしている。 何人かの水兵や士官が耐えかねて船から飛び降りているが、いくらメイジといえどもこの高さから落ちれば『フライ』や『レビテーション』の詠唱もままならず、地面の染みと化すだろう。 良く見るとその艦の操舵手は何とか不時着させようとしているのか、煙を吸わないよう右手で口を押さえながら左手で舵を取っていた。 彼のこの先の運命を予見したボーウッドは、あの操舵手に始祖ブリミルの祝福あれと心の中で祈るほかなかった。 そうして燃え上がる小型艦が艦隊から脱落したのを見届けてから、隣にいたワルドに話しかける。 「子爵。どうやら君が思っていたほど、トリステインは甘くは無かったらしい」 地上からの砲撃が止み、事態を把握した『レキシントン』号のクルー達を見ながらポーウッドは言った。 水兵たちは地上から攻撃されたと知って再び慌てふためいている。 その様子をボーウッドの後ろから眺めていたワルドは参ったと言いたげな微笑を浮かべながら「そのようでしたな」と返した。 少なくともその口調からは、自分の予想が外れていた事に対する罪悪感は感じていないらしい。 士官や水兵たちが右へ左へ走り回るその光景を目にしながら、ワルドはポツリと呟く。 「しかし、参りましたな。敵を罠にはめたつもりが、我々がそっくりそのまま逆の立場になってしまうとは」 「あぁ、全くだ」 子爵の言葉に相槌を打ちつつ、しかし始まった以上には勝たねばならない。と付け加えた。 軍人である今のボーウッドにできることは、『レキシントン』号の艦長として空と陸に陣取ったトリステイン軍をできるだけ速やかに叩く事だけだ。 幸い敵艦隊を不意打ちで壊滅させた後、降ろすはずであった地上軍を乗せた船は未だ健在である。 先程の地上からの砲火で敵の大体の位置は分かる筈だろう。ならばそこを優先的に攻撃して制圧する必要がある。 「トリステイン軍艦隊は質と量の差で真っ向勝負は仕掛けて来ない筈。それならば、今は敵地上勢力を叩く事に専念できる。 子爵くん、早速だが君には竜騎士隊を率いて先ほど砲弾が飛んできた森林地帯を重点的に攻撃してくれないかね?」 ボーウッドからの命令に、ワルドは得意気な笑みを浮かべた。 流石根っからの軍人、対応が御早い。彼はそう思いながらもその場で敬礼をして言った。 「…分かりました、地上の掃除は私とアルビオン軍の竜騎士達にお任せを」 この船の中では数少ない物わかりの良い相手からの返事に、ボーウッドも満足そうに頷く。 そんな時であった、今まで二人の視界から消えていたジョンストンが頭を抱えて嘆き出したのは。 「あ、あぁ!あぁ!何という事だッ!よもや、トリステイン軍が地上軍を派遣していたなんて!!!」 ついさっき甲板に叩きつけた自分の帽子を両手で抱えるように持った彼は、涙を流して何事か叫んでいる。 その叫び声が騒乱に包まれた甲板の上でもハッキリ聞こえたボーウッドとワルドは、ついそちらの方へ目を向けてしまう。 まるで丸まったハムスターの様に蹲るジョンストンは、もう脇目も振らずに泣きわめき、叫び続けている。 本当なら一瞥しただけで無視してやっても良かったが、彼の口から叫びと混じって出てきたのは…ある種゛懺悔゛に近いモノであった。 「か…閣下!クロムウェル閣下!?だからっ、だから私は反対したのですよ!?トリステインへの奇襲攻撃など…!! トリステインの内通者がバレて、更にスパイの存在も知られて…なぜ奴らがそれでも条約を守りたいとお思いになられるのですか!?」 トリステインの内通者?スパイ?…一体何の話だ? ボーウッドとワルドはお飾り司令長官の口から出た単語に、思わず互いの顔を見合ってしまう。 実はトリスタニアで露見された内通者やスパイの件は、ボーウッドの様な将校や外国人であるワルドの耳には入ってきてなかったのである スパイを送り込んだ事そのものを評議会は隠蔽し、こうしてジョンストンの口から語られるまで彼ら以外の者には知らされていなかったのだ。 だがそんな二人にも、ジョンストンの叫んでいる内容そのものが、トリステイン軍が待ち伏せを行う切欠になったのだと、察する事はできた。 でなければ敵軍が地上に砲撃部隊を配置していたという事に対して、こんなに取り乱す筈はないであろう。 「私の提案の様に…奇襲を諦め、長期的なコネ作りに励んでいれば…全ては上手くいっていた!! トリステインは確実に手に入れる事ができた…というのに!だというのに…こんな事になってしまった! 閣下!こ、この責任は貴方の責任なのですよ…!!?決して、これは私のミスではありませんぞ……!!」 一人泣きながら演説の様に叫び続けるジョンストンを、二人はただ黙って見つめていた。 このまま放っておいてもいいのだが、今は一分一秒を争う状況なのだ。これ以上下手な事を叫ばれて兵たちに聞かれては不味いことになる。 自分に黙って水面下で行われていた事については確かに気にはなるが、今はそれに専念する程の余裕は無い。 ボーウッドが目だけをワルドの方へ動かすと、艦長の言いたい事を察した彼が腰に差しているレイピア型の杖をスッと抜いた。 …静かにさせますか?クロムウェルから新しく貰ったソレをジョンストンへ向けたワルドの顔が、ボーウッドにそう問いかけている。 ……殺すなよ?ボーウッドはそう言いたげな渋い表情で頷き、それを了承と受け取ったワルドが詠唱もせずに杖を振り上げようとした。 そんな時であった――― 「おやおや、随分と悲観に暮れてらっしゃるではありませんか。ジョンストン殿?」 ボーウッドとワルドの後ろから、聞き慣れぬ女の声が聞こえてきたのは。 まるで急に現れたかのように唐突で、あまりにも透き通っていて幽霊の様な不気味ささえ匂わせる声色。 そんな声が後ろから聞こえてきてから一秒。杖を手にしたワルドが風を切るような勢いで後ろを振り返る。 振り向いた先にいたのは…古代の魔術師めいたローブに身を包み、フードを頭からすっぽりと被った女だった。 顔を隠した女はマントを着けていない事から平民なのかもしれないが、その体からは異様な気配が漂っている。 声と同じでまるで幽霊のように存在感は無く、゛風゛系統の使い手であるワルドでさえも喋られるまで気づかなかった程だ。 黒いフードもまた一切の飾り気が無く、それが却って女の不気味さと冷たさを助長させている。 そんな見知らぬ不気味な女が、混乱の最中にある甲板の上に悠然と佇んでいるという光景はあまりにも異様であった。 ワルドは杖の切っ先を女へと向け、艦長であるボーウッドが誰何しようとした時…その二人を押しのけるようにしてジョンストンが女へと詰め寄ってきた。 「おぉ…シェフィールド殿!シェフィールド秘書官殿ではないか!!」 先程まで泣き叫んでいた憐れな司令長官は期待と羨望に満ちた表情で、シェフィールドを見つめている。 その名に聞き覚えのあったボーウッドは、彼女がかつて自分にニューカッスル城への奇襲を実行させた人物だと思い出す。 クロムウェルの秘書官が何故こんな所へ?いや、それよりもいつ乗船したというのか。 疑問を一つ解消し、新たな疑問が二つも出来てしまったボーウッドを余所にジョンストンが饒舌に喋り出す。 「おぉ…秘書官殿ぉ…敵が、トリステイン軍が伏兵を配しておりましたっ!このままでは、閣下から任せられた艦隊がやられてしまいますぞ…!」 「安心しなさい、この事もクロムウェル閣下の予想範囲内。次の一手を打つ準備はできているわ」 まるで始祖像に縋る狂信者の様なジョンストンを宥めながら、シェフィールドは林檎の様に紅い唇を動かしてそう答えた。 その口の動きすらまた不気味に感じたボーウッドは、気を取り直すように咳払いをしつつ二人の会話を黙って聞いている。 彼女の話から察するに少なくとも今この状況を聞く限り、打開できる程の切り札があるらしいがボーウッド自身はそれに心当たりがなかった。 艦長である自分に知らせずに兵器にしろ武器にしろ積むというのは、無理があるというものだ。 後ろにいたワルドに目を向けるも、彼もワケが分からないと言いたげな表情を浮かべて軽く頷く。 一体どういう事なのか?放っておけない謎だけが積み重なっていく中で、ジョンストンは喋り続けている。 「おぉ、お願いします!すぐにでも、すぐにでもそれをお使いください!!それで忌々しいトリステイン軍を……ッ!」 最後まで言い切ろうとした彼はしかし、自分の口の前に出されたシェフィールドの右手の人差し指によって止められてしまう。 たったの人差し指一本。それだけで今まで散々喚いていたジョンストンとが、口をつぐんでしまったのだ。 この時、ワルド達には見えなかったがジョンストンの目にはフードで隠れたシェフィールドの目がしっかりと見えていた。 唇と同じ深紅色の鋭い瞳が蛇の様な冷たさを放って、彼の顔をギロリと睨んでいたのである。 蛇に睨まれた蛙の気持ちとはこういうものか…。ジョンストンは無意識に止まってしまった自分を、ふとそんな風に例えてしまった。 「貴方に請われなくとも、既に゛投下゛の用意に移っているわ。…だからそこで大人しくしていなさい」 シェフィールドは最後にそう言うと踵を返し、体が硬直したままのジョンストンを放ってスタスタと船内へと続くドアへと歩いていく。 ボーウッドは突然現れ、そして自分たちには声も掛けずに去っていく彼女の背中をただずっと見つめている。 ワルドもまた彼の後ろから見つめているだけで、後を追うような事はしなかった。 (…投下?投下とは一体どういう意味だ…!?) 今まで自分がこの艦の艦長であり、これから指揮を取ろうとしたボーウッドは自分が知らない事実がある事に困惑していた。 これまで経験してきた戦いは単純明快であり、勝つか死ぬかの命を賭けた真剣勝負でそこに謀略というモノは殆どなかった。 それが自分の信じる軍人としての戦いだと思っていたし、これからも続く不変の概念だと信じていた。 だがそれも今日をもって、終わりを告げることになってしまうのだろう。あの女の手によって。 「艦長…あの女、クロムウェルの秘書官殿は何をするつもりなのでしょうか?」 後ろから聞こえてくるワルドの質問にも、彼はすぐに答える事が出来なかった。 ただただドアを開けて、船内へと吸い込まれるように消えていったシェフィールドの後姿を見つめながら、ポツリと呟いた。 「あの女は、一体何をするつもりだというのだ…?」 時間は丁度午後十二時を回ろうとしているところで、トリステイン王宮内の厨房では早くも昼食の準備が済んでいた。 国中から集められた腕利きのシェフたちが厨房を舞台に、平民はおろか並みの貴族ですらお目に掛かれないような豪華なランチの数々。 一つの皿に盛られたメインの肉料理だけでも、平民の四人家族が三日間遊んで暮らせる程の金が掛かっている程だ。 そんな豪華な料理を作り出し、運び出そうとしている厨房は賑やかになるのだが…今日に限っては王宮全体がやけに賑わっていた。 あちこちの廊下を武装した騎士や魔法衛士隊員が戦支度の為に走り回り、廊下の埃を舞い上がらせている。 いつもなら執務室で昼食を心待ちにしている王宮勤務の貴族たちも、顔から汗を噴き出す程忙しく走り回っていた。 平民の給士達は何が起こったのか把握している者は少なく、多くの者たちが廊下の隅や待機室で走り回る貴族たちを不安げに見つめていた。 そして事情を把握している者たちは、知らない者たちへヒッソリ囁くように何が起こったのか大雑把に伝えていく。 …曰く。ラ・ロシェールで親善訪問の為に合流しようとしたアルビオン艦隊が、トリステイン艦隊を襲ったという事。 けれどもそれを間一髪で避けたトリステイン艦隊は、゛偶然近くで訓練していた゛国軍の砲兵大隊に助けられたいう事。 そして国軍の監査をしていた王軍の将校たちが指揮を取り、騙し討ちをしようとしたアルビオン艦隊との交戦に入ったという事。 誰が最初に広めたかも知らない噂はたちどころに王宮中に伝幡し、一つの『事実』として形作られていく。 ある者は「王家を滅ぼした貴族派らしい、卑怯な手口だ!」と批判し、また別の者は「戦争が始まるのかしら…?」と不安を露わにしていた。 一方で、貴族たちの中で軍属についている者達は上層部からの出撃命令を、今か今かと心待ちにしている。 上司たちから伝えられた内容が本当ならば、今すぐにでもラ・ロシェールで戦っている友軍と合流しなければならないのだ。 竜騎士は朝からの濃霧で出撃には時間が掛かるが、その他の幻獣に乗る魔法衛士隊ならば日付を跨いで深夜中に辿り着くことができる。 けれども、各隊の隊長たちは未だ緊急に設けられた対策室から出て来ず、隊員たちはどうしたものかと皆首を傾げている。 騎士達も騎士達で出動命令を待っており、できる限り竜騎士隊を今のうちに出させたいという意思があった。 この霧の中で長距離飛行は風竜でもなければ方角を見失う可能性があり、不幸にも風竜は此度の作戦でラ・ロシェールからの伝令役に全頭駆り出されている。 風竜はブレスの威力が弱い為に飛行力はあっても戦闘力は火竜より低く、そして火竜は戦闘力あれど飛行力は風竜に大きい差があった。 一応霧の中を長距離飛行させる方法はあるのだが、如何せん方角を見失った際に地上に着地させて、方角を指示してやらなければいけないのである。 更に火竜は頭が悪いせいで何度も着地させて教え直す必要があり、今出動してもラ・ロシェールにつくのは明日の朝方になってしまう。 だから騎士達も焦ってはいたのだが、自分たちの隊長が対策室から一向に出て来ない理由だけは知っていた。 彼らは伝令役を仰せつかった騎士仲間から、ある程度現地の―――最前線の情報を知る事が出来ていた。 伝令曰く、アルビオン軍は亜人とは違う見たことも無い『怪物』を地上軍のいる森林地帯に投下したのだという。 地上に降りた彼奴らは、周囲の霧を蝕むかのようにドス黒い霧を放出して地上軍に襲い掛かった。 その時上空にいた彼は全貌を知る事はできなかったが、地上軍は一時間と経たずに森から出てきたのだとか。 『怪物』たちは無秩序な動きとドス黒い霧を伴って王軍のいるラ・ロシェールへ突撃、そして… それから後の事は、その時伝えに来た伝令は知らない。 彼は本作戦の指揮を任されたド・ポワチエ大佐から、敵が未知の『怪物』を差し向けてきたという事を伝えろと言われて、町を後にしたのである。 故にその後ラ・ロシェールがどうなったか、そして今現在の状況がどうなってるいるのかまでは知らなかった。 「クソッ…出動命令はまだなのか?一体どうなっている!」 王宮の廊下を、喧しい足音を立てて魔法衛士の隊員三人が早足で歩いきながら一人叫ぶ。 彼らのマントには幻獣ヒポグリフの刺繍が施されている事から、彼らがヒポグリフ隊の所属だと一目で分かる。 その後ろに同僚であろう二人の隊員が後へと続き、彼の独り言に相槌を打つかのように言葉を出す。 「対策室へ行っても隊長たちからは待機しろ、待機しろ…の繰り返し。このままじゃ、戦況がどうなるか分からないっていうのに」 「全くだよ!聞けば、郊外の森林地帯で陣を張った国軍が既に敗走しているらしいぞ」 後ろにいた二人の内三十代前半と思しき同僚が口にした国軍の情報に、先頭の隊員が鼻で笑ってこう言った。 「所詮平民と下級貴族の寄せ集め軍隊なぞ、そんなものだろ?」 「けれど俺の友人の騎士から聞いた話だと、亜人でもない未知の『怪物』の仕業とか…」 反論か否か、食い下がる同僚の言葉を遮るようにして、先頭の彼は言った。 「いいか?例え相手がその『怪物』だろうが、俺たち魔法衛士隊が出動すればすぐに―…イテッ!?」 そんな時であった。先頭を歩く彼の言葉を無理やり中断させるかのように、曲がり角から黒い影がぶつかって来たのは。 不意に当たった彼は、すぐに後ろにいた同僚が倒れようとした背中を押さえてくれたことでなんとか事なきを得た。 一方で曲がり角からやってきた謎の黒い影も「おわっ…トト!」と可愛らしい声を上げて、何とかその場で踏みとどまっている。 何とか倒れずに済んだ黒い影―――もとい、魔理沙は帽子が落ちてないか確認してから、ようやくぶつかった相手と目が合った。 そして相手が男三人の内先頭の者とぶつかったと察すると、やれやれと言いたげに首を横に振って呟く。 「…全く、人が曲がり角を通るって時にぶつかってくるとは危なっかしい連中だぜ」 「何だと…?」 自分がぶつかってきたという自覚が微塵もないその言い方に、先頭の隊員はムッとした表情を浮かべる。 思わず腰に差していた杖を抜くと、その切っ先を魔理沙の喉元へと躊躇なく向けた。 「貴様、このヒポグリフ隊所属の私に向かって何たる口の利き方か…」 彼の経験上。平民や下級貴族ならばこの言葉と杖を向けるだけで、相手が竦む事を知っていた。 だが魔理沙はその杖を見ても怯えるどころか、厄介なモノを見るかのような表情を浮かべて言った。 「えぇ…?おいおい、勘弁してくれないか?今はただでさえ急いでるんだよな、コレが」 事実本当に急いでいる魔理沙の言葉はしかし、彼の怒りのボルテージを更に上げてしまう事となる。 何よりもその表情――顔の前を飛び回る羽虫を鬱陶しがるような顔に、杖を持つ手に力が入り過ぎてギリギリと音がなる程怒っていた。 「黙れ、貴様の事情など知った事ではない!それよりも貴様は……」 「ちょっとマリサ!一人で勝手に突っ走るなって言ったでしょうがっ!」 何者だ!―――――そう言おうとした時、魔理沙が通ってきたであろう曲がり角の向こうから声が聞こえてきた。 目の前にいる無礼な平民(?)の少女と同年代であろう、少女の軽やかな怒鳴り声。 その声に聞き覚えのあった先頭の隊員は、魔理沙を睨んでいた顔をフッと上げて彼女の後ろを見やる。 彼が顔を上げたのとほぼ同時であっただろう。自分にぶつかってきた少女の後を追うようにして、ピンクブロンドの少女が走ってきた。 黒のプリーツスカートに白いブラウス、そして黒いマントを着けている事から少女が貴族だとすぐにわかる。 だがそれよりも遥かに目立つピンクブロンドの髪が、彼女がトリステインで最も名のある公爵家の者だと無言で周囲に伝えていた。 「み、ミス・ヴァリエール…!」 後ろにいた同僚の一人が突然現れた公爵家の者に驚き、無意識にそう叫んでいた。 だが肝心のヴァリエール家の令嬢――――ルイズはその声には反応せず、魔理沙へと怒鳴りかかる。 事情はよく知らないが、その燃えるような怒りの表情を見るに何かがあったのだろう。 「アンタねぇ!折角姫さまのいる場所を聞いたってのに、…先を行き過ぎて迷ったらどうするのよ!?」 「いや~、ワタシってばこう突っ走っちゃう性格でね、やっぱり常日頃箒で飛ばし過ぎてるせいかもな」 先程魔理沙へ杖を突きつけた隊員も驚くほどの怒声でもって、ルイズは黒白の魔法使いへと詰め寄る。 一方の魔理沙も慣れたモノなのか、頭にかぶっていた帽子を外して気軽そうに言葉を返している。 そのやり取りに思わず杖を抜いた先頭の隊員も、その切っ先を絨毯へ向けてただただ見守るほかなかった。 と、そんな時にまたもや曲がり角の向こうから、三人目となる別の少女の声が聞こえてきた。 「ちょっとアンタたち。駄弁ってる暇があるなら、前にいる奴らを道の端にでも寄せたらどうなのよ?」 先の二人と比べて何処か暢気そうで、それでいて苛立たしさを少しだけ露わにしているかのような棘のある声色。 前の奴らとは我々の事か?三人目の言葉に後ろにいた二人がついついお互いの顔を見遣ってしまう。 貴族を相手にして何たる物言いか。先頭の隊員がそんに事を想いながら顔を顰めた時、三人目がヒョッコリと姿を現した。 ハルケギニアでは珍しい黒髪に大きくて目立つ赤いリボン、そして袖と服が分離している珍妙な紅白の服。 左手には杖らしきモノを持っているがマントは着けていない所為で、貴族かどうかは判別がつかない。 そんな変わった姿の少女―――霊夢が呆れた様な表情を浮かべて、ルイズと魔理沙の前へと出てきた。 「…って、何言い争ってるのよ二人とも?」 「イヤ、喧嘩じゃないぜ。ルイズが前を行き過ぎるなと叱って、それに私が仕方ないだろうと言葉を返しただけさ」 「世間様では、それを言い争いとか口喧嘩というらしいわよ」 「ちょっと!二人して何してるのよ!?そんな事してる暇があるならねぇ――」 妙に回りくどい魔理沙の言動に、霊夢は溜め息をつきながらも言葉を返す。 そこへルイズが怒鳴りながら入ってしまうと、彼女たちの前にいる魔法衛士隊隊員達は何も言う事ができなくなってしまった。 一体これはどういう事なのか?魔法衛士隊の三人が突然で賑やかな少女達に呆然としてしまう。 そんな時に限って、厄介事というのは連続して起こるという事を彼らは知らなかった。 「……ん?おい、また誰か角を曲がって来るぞ」 ルイズたちがギャーワーと喋り合っている背後から新たな影が出てくるのを見て、隊員の一人が言った。 今度は何だ?うんざりした様子でそう思った先頭の隊員が三人の背後へと視線を移し、そして驚く。 先ほどの少女たちはそれぞれ一人ずつ数秒ほど時間を置いて出てきたが、何と今度は一気に三人も出てきたのだ。 だがそれで彼らが驚いたワケではなく、原因はその出てきた三人の『状態』にあった。 「おい、しっかりしろ!」 「う、うぅ…スマン」 「もうすぐ会議室だ、踏ん張れ!」 新しく出てきた三人は王宮の騎士隊であり、肩のエンブレムを見るに竜騎士隊の所属だと分かった。 その内二人は一人の両肩を貸しており、その一人は一目でわかる程酷い怪我を負っている。 怪我をした竜騎士は今にも倒れそうなほど頼りない足取りであり、肩を貸してもらわなければすぐにでも倒れてしまうだろう。 突然現れた負傷した騎士に驚いた衛士隊の者たちはハッと我に返り、先頭の隊員が騎士の一人に声を掛けた。 「…あっ、おい…!大丈夫か、どうしたんだその怪我は?」 「ん?あぁ魔法衛士隊のヤツか。スマンが、今は道を空けてくれ!伝令のコイツを連れて行かないと…」 怪我をした同僚の右肩を支えていた騎士が言葉を返すと、言い争っていたルイズがハッとした表情を浮かべる。 今はこんな事をしている場合じゃないと、気を取り直すかのように頭を軽く横に振ると先頭の衛士隊隊員に向かって言った。 「すいません!私達もこの騎士達と一緒にアンリエッタ姫殿下の許へ行きたいのですが、会議室はこの先で合ってるんですよね!?」 王宮の中心部にある会議室は、交戦状態となったアルビオン軍との戦いをどう進めるかの対策室に変わっていた。 三時間前に戦闘開始の伝令が届けられてから、王宮にいた大臣や軍の将校たちがこの広い部屋に集結して会議を続けている。 縦長のテーブルの左右に設けた席に彼らが腰を下ろし、テーブルの上にはラ・ロシェール周辺の地図が何枚も広げられている。 大臣や将校たちはその地図を指さしながら口論し、この戦いをどのように進めて終幕を引くべきかを議論していた。 「既にアルビオン側のスパイと、我が国の内通者が通じ合っていたという証拠は確保しているのだ。 後はこの戦いを一時的な膠着状態にして、アルビオンが非難声明を出すと同時にそれを公表すれば奴らは終わる」 「イヤ!すぐにでも国中の軍隊を動員して艦隊だけでも潰すべきだ!!正義は我らにある!」 とある将校と議論していた一人の大臣が書類を片手に提案を出すと、好戦的な反論が跳ね返ってくる。 既に国中に待機しているトリステイン国軍は出動態勢を整えており、王軍の方も今か今かと出動命令を待っているのだ。 しかし大臣側も好戦的な彼らの提案と気迫に負けぬものかと言わんばかりに、別の大臣がその将校に食って掛かる。 「だが今動員させたとしても、大軍となるのには最低でも四日は掛かりますぞ!?アルビオンは我々が集まるのを悠長に待つワケがない!」 仲間の言葉に他の大臣たちもそうだそうだ!と賛同の相槌を打ち、対策室の空気を何とか変えようとしている。 将校側も場の空気が変わりつつあるのを察してか、反論された将校の隣にいた魔法衛士ヒポグリフ隊の隊長が口を開く。 「ならばその時間を、我々魔法衛士隊と竜騎士隊を含めたトリスタニアの王軍で稼ぎましょうぞ!」 「まだ敵がどれ程の地上軍を有しているのか、分かってないのだぞ?戦うしか能のない衛士隊は黙っておれ!」 白熱した論戦のあまりついつい乱暴な口調になってしまう大臣の言葉で、ようやくこの場を落ち着かせようとする者が出てきた。 「諸君、落ち着いて下され!あまり議論に熱を掛け過ぎては、ただの喧嘩になってしまいますぞ!」 アンリエッタの座る上座の横で佇んでいたマザリーニ枢機卿が一歩前に出て、滅多に出さない程の大声で呼びかける。 幸いにも彼の大声で論戦のあまり熱暴走しつつあった対策室は、冷水を浴びせられたかのように落ち着きを取り戻した。 何とか彼らの口を閉ざすことができたマザリーニは、軽い咳払いをしてから淡々としゃべり始めた。 「とにかく…今のトリステインは大臣側の提案を実行し、アルビオン以外の他国に大義は我々にあると教えなければならん。 援軍については、今後来るであろう伝令の戦況報告に応じて調整する必要があるだろう。今は打って出るべきとは思えん」 大臣側、将校側両方を組み合わせたかのようなマザリーニの提案に、大臣側の何人かがホッと安堵の一息をつく。 しかし将校側にはまだ不安要素があるのか、魔法衛士マンティコア隊隊長のド・ゼッサールが片手を上げて枢機卿に話しかけた。 「だがマザリーニ殿、先程の伝令によると何やら前線においてアルビオン側が見たことも無い兵器を使用したと…」 そんな彼に続くようにして国軍将校である辺境伯も片手を軽く上げて、マザリーニに質問を投げかける。 「左様。敵は亜人とも違う全く未知の『怪物』の軍勢を地上に投下して国軍を敗走させ、王軍のいたラ・ロシェールにも突撃したと聞きましたが…。 それがもし本当ならば…国軍、王軍共にこれ以上の被害が拡大する前に増援部隊を派遣して、その『怪物』達に対処する必要があるのでは?」 マンティコア隊隊長と辺境伯の言葉に、将校たちはウンウンと頷きながら確かにと呟いている者もいる。 彼らは戦いを膠着状態に持っていくのは賛成しているが、増援は出来る限り迅速に送るべきだと主張していた。 無論その報告を聞いていたマザリーニもその事についてすぐに拒否することはできず、むぅ…と呻く事しかできない。 そんな彼の反応に大臣側であり友人であるデムリ財務卿と、アカデミー評議会議長のゴンドラン卿が不安そうな表情を浮かべている。 彼らも戦闘の一時膠着を望んでおり、マザリーニ自身もどちらかといえば大臣側の味方であった。 出来る事ならば最小限の戦いでアルビオンを食い止めて、奴らに不可侵条約の意思なしと公表するのがベストであろう。 (だが…我々はそう思っていても、今の殿下のお気持ちは――――) 彼はそこまで考えて自分のすぐ右、この部屋の上座に腰を下ろすアンリエッタを横目で一瞥する。 三時間前にアルビオンとの戦闘開始が伝えられ、この部屋へ来てからというもの彼女はずっとその顔を俯かせていた。 一言も喋ることなく悲しそうな、何かを思いつめているような表情を浮かべて右手の薬指に嵌めた指輪を左手の指で撫で続けている。 御気分が優れぬのかと、何度か一時退席させて休ませては見たがここに戻ってくるとまたすぐに俯いてしまう。 臣下の者たちも心配してはいるのだが、彼女の口から会議に専念して欲しいと言われてしまったのでどうしようもできない。 そんな時であった、会議室の出入り口である大きなドアが突然開かれたのは。 いきなりの事にドアのそばにいた貴族たちが何事かと見やって、ついで多数の者が怪訝な表情を浮かべてしまう。 彼らの前でノックも無しにドアを開けて入ってきたのは、憮然とした態度で会議室を見回している霊夢であった。 「ほー、ほー…成程。アンリエッタがいるという事は、ここが会議室って事かしら?」 貴族たちに誰かと問われる前に、目当ての人物を探し当てたであろう霊夢が一人呟くと、右手を上げて「ちょっとー?アンリエッタ~?」とアンリエッタに話しかける。 突然現れた霊夢の態度と敬愛するアンリエッタ王女への呼び方を耳にした貴族たちは彼女の無礼な態度に、怒りよりも先に驚愕を露わにした。 トリステインの百合であり象徴でもあるアンリエッタ王女を呼び捨てはおろか、王族相手に友だちへ声を掛けるかの如く気安さ。 例え平民や盗賊や傭兵に身をやつしたメイジでも取らないような霊夢の態度に、彼らはただただ呆然とするほかなかった。 「だ…誰ですか貴方は!ここは関係者以外今は立ち入りを禁止にしていますぞ!」 霊夢の無礼さから来る驚愕から一足先に脱したであろうデムリ卿が、目を丸くしながら言った。 「関係者なら大丈夫なの?じゃあ私はアンリエッタの関係者だから、部屋に入っても良いわよね」 「なっ…!で、殿下…それは本当で?」 しかし霊夢も負けじと言い返すと、デムリ卿は思わず上座のアンリエッタを見遣ってしまう。 アンリエッタもまた突然やってきた霊夢に驚いた様な表情を浮かべていたが、デムリ卿の言葉にスッと席を立った。 「れ、レイムさん…、どうしてここへ…?」 「いや~何、別に用って程でもないんだけど…まぁ、ルイズの付添いって感じね」 アンリエッタと霊夢のやり取りを見て、その場にいた貴族たちの何人かがざわついた。 あのアンリエッタ王女が、自身に全く敬意を払わぬ怪しい身なりをしたレイムという少女に対してさん付けで呼んでいる。 マザリーニ枢機卿など王宮に常駐して霊夢達の事を知っていた貴族以外は、一体何者なのかと疑っていた。 ただ一人、ゴンドラン卿だけは霊夢の姿をマジマジと見つめながら顔を青白くさせている。 「……失礼します!!姫さま!」 そんな時であった、ざわつき始めた会議室の中へ飛び込むかのようにルイズが急ぎ足で入室してきた。 今度の乱入者は魔法学院生徒の身なりに、ピンクブロンドのヘアーという事で部屋にいた貴族たちはすぐに彼女の事が分かった。 ルイズは霊夢のすぐ傍で足を止めると、上座の方にアンリエッタがいる事に気付いてホッと安堵の一息をつく。 「おぉ!これはこれは、ヴァリエール家の末女であるルイズ様ではございませぬか!!」 ドアのすぐ近くの席に座っていた大臣が、ルイズの顔を見てギョッと驚いた様な表情を浮かべた。 彼の言葉に他の大臣や将校達も半ば腰を上げてルイズの顔を見遣り、そして同じような反応を見せる。 「得体の知れぬ少女の次は、ヴァリエール家の末女様が来るとは…これは一体どういう事なのだ?」 「酷いこと言うわねぇ、誰が得体の知れぬ少女よ?」 「そりゃ挨拶もなしにそんな身なりで入ってきたら、誰だってそう思うだろうさ」 大臣の口から出た言葉に霊夢がすかさず突っ込みを入れた時、ルイズに続いて今度は魔理沙が入室してきた。 三人目の闖入者に更に会議室は沸いたのだが、彼女の後に続いて入ってきた者たちを見て全員が目を見開てしまう。 「し、失礼致します!ただいまラ・ロシェールからの伝令を連れてまいりました!」 魔理沙の後に続いて入ってきた魔法衛士隊隊員の一人がそう言うと、四人の騎士と隊員達に支えられた伝令が入ってきたのだ。 「これは…っ!一体どうした事か!?」 「何と酷い怪我だ…」 大臣や将校達は隊員たちに肩を支えられて入ってきた伝令の騎士を見て、彼らは様々な反応を見せる。 ある大臣は血を見ただけで顔を青白くさせ、将校や隊長達が席を立って伝令の傍へと駆け寄っていく。 「……ッ!」 「何と…」 マザリーニ枢機卿も傷だらけで入ってきた伝令に目を丸くし、アンリエッタは口元を両手で押さえて悲鳴を堪えていた。 伝令の傍へ駆け寄ってきたヒポグリフ隊の隊長が、騎士達と共にやってきた自分の隊の者に話しかける。 「おいっ、これはどういう事なのだ?」 「はっ、先程隊長殿に待機命令を受けた後に戻ろうとした際にこの者達に続いて、彼らがやってきて…」 ついさっき魔理沙とぶつかった隊員が横にルイズたちを見やりながら、やや早口で隊長に説明をしていく。 その傍らで竜騎士隊の隊長が自分の部下でもある伝令に、不慣れながらも゛癒し゛の魔法を掛け続けている。 しかし伝令の傷は外から見るよりも酷く、出血もそこそこにしている事が今になってわかった。 「お前たち、どうしてコイツが戻ってきた時点で応急処置をしなかったんだ」 「その…実は戻ってきた時は平気そうなフリをしていたのですが…我々が用事で城内へ入った際に、彼女たちが倒れていたソイツを介抱していて…」 部下のその言葉に、隊長は蚊帳の外に移動しかけたルイズたちの方へと顔を向ける。 強面の竜騎士隊隊長に睨まれた魔理沙が多少たじろいだが、そんな彼女を余所にルイズがすかさず説明を入れた。 「最初に私が倒れているのを見つけた時、医務室につれて行こうとしたのですが…どうしても姫様に伝えたい事があると言って…」 その輪の外で様子を窺っていたアンリエッタがハッとした表情を浮かべて、その騎士の許へと駆け寄っていく。 何人かの者がそれを制止しようとした素振りを見せつつも、彼女はそれを気にもせずに負傷した伝令の傍へ来ると水晶の杖を彼の方へと向けた。 軽く息を吸ってから、慣れた様子で『癒し』の呪文を詠唱し始めると、杖の先についた小さな水晶が不思議な光を放ち始める。 見ているだけでも心が落ち着くような水晶の光が騎士の体から傷を取り除き、まともに立つことすらできなかった疲労感すら消し去っていく。 それを近くで見ていた者たちはルイズを含めて『癒し』の光に皆息を呑み、魔理沙は興味津々な眼差しでアンリエッタの魔法を観察している。 霊夢は相変わらずぶっきらぼうな表情でその様子を眺めていたが、思っていた以上に献身的なお姫様に多少の感心を抱いていた。 「大丈夫ですか?」 「あぁ…姫殿下、申し訳ありません…。私如きに、貴女様が魔法を使われるなどと…」 敬愛する王女からの治療に伝令はお礼を言って立ち上がろうとしたが、アンリエッタはそれを手で制した。 「そのままで結構です…。一体、私に直接報告したい事とはなんですか?」 アンリエッタからの質問に、伝令はスッと目を細めるとゆっくりと喋り出す。 「ら……、ラ・ロシェールに派遣された王軍指揮官の…ド・ポワチエ大佐からの伝令、です…」 彼はそう言って息を整えるかのように深呼吸をしてから、それを口にした。 「『我ガ王軍、及ビ国軍ハアルビオン軍ノ謎ノ怪物ニヨリ壊滅状態ナリ。 ラ・ロシェールノ防衛ヲ放棄、タルブ村マデ後退。至急増援ヲ送リ願イマス』との…こと」 彼の言葉から出た伝令の内容に、騒然としつつあった会議室が一斉に静まり返った。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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「…それで、その『ゼロのルイズ』が平民を助けたと言うのか」 「ええ、そうよ」 城下町の小さな劇場に、サイレントの魔法で包まれた二人組がいた。 一人は仮面を被った男、もう一人はミス・ロングビルである。 ロングビルが男に話したのは、ルイズに関することだった。 昨日、モット伯の別荘に平民が連れて行かれたのを知った『ゼロのルイズ』は、単身でモット伯の別荘に乗り込んだ。 それを知ったロングビル、タバサ、キュルケの三人は、タバサの使い魔シルフィードに乗り、モット伯の別荘へと急いだ。 途中、馬で逃げようとしたモット伯を発見し、ロングビルが保護。 別荘に向かったルイズはシエスタを背負って屋敷から出てきたが、キュルケとタバサを見るなり気を失った、現在シエスタが看病している。 モット伯を魔法学院で保護しようとしたが、そこにマンティコア隊が現れ、モット伯のバックを没収し、モット伯の身柄は拘束されてしまった。 翌日オールド・オスマンから話を聞くと、モット伯は以前から汚職の件で疑われていたのだと言う。 モット伯が持ち出した書類の中からその証拠が発見され、最低でも身分剥奪は免れないとか。 「…腑に落ちん、『ゼロのルイズ』と呼ばれるメイジが、モット伯に仕えていたメイジと戦い、勝利したというのはな」 「実力を隠してたんじゃないかしら?…それにしても、ずいぶんあの娘のことが気になるのね」 ロングビル…いや、本物の『土くれのフーケ』は、宝物庫でこの男から受けた脅迫を忘れたかのように、男をからかいつつ話を進める。 男は、それがフーケの虚勢だと気づいているのだろうか、男はフーケに言い返した。 「気にしているのはお前の方だろう、平民を助けようとするメイジに、心を乱されているようだな」 「………」 フーケは、何も言い返せなかった。 さて、場面は移り、ここはトリスティン魔法学院の女子寮。 ルイズが目を覚ますと、すでに日は高かく昇り、午後の授業が始まる頃の時間だった。 驚いたルイズはベッドから飛び起き、ベッドから降りようとすると、なぜかベッドの脇に置かれている小さな机に足を引っかけ、盛大に転んでしまった。 どべちーん、と音を立てて、おでこから床に落下したルイズ。 「ルイズ様!」 それを見て驚いたのはメイドのシエスタ。 なぜかルイズの部屋にいたシエスタは、ルイズを助け起こすと、こんな所に机を置いた私が悪いんですと謝り始めた。 そんな事はどうでも良いから、なんでシエスタがここに居るの?と問うルイズ。 謝り続けるシエスタ。 何がなんだか分からずシエスタを慰めるルイズ。 授業が終わり、夕食前にキュルケとタバサがルイズの様子を見に来るまで慰め合戦は続いた。 「それにしてもあんた、凄いじゃない、タバサが感心してたわよ」 「……」 キュルケの言葉に無言で頷くタバサ。 だが、当のルイズは何の話なのか分からず、頭にクエスチョンマークを浮かべた。 何の話なのか質問しようとした時、シエスタがルイズに頭を下げた。 「あの…ルイズ様、助けて頂いて、本当にありがとうございました」 「助けて?…って、あ、そっか、シエスタ!あの変態に何かされてない?大丈夫?」 ルイズはシエスタの一言で、モット伯の別荘で起こったことを思い出した。 「呆れた!ルイズ、あんた今まで自分が何をしたのか忘れてたの?」 キュルケが両手を左右に開き、ジェスチャアを交えつつ、心底呆れたように言う。 そしてタバサはルイズの若年性痴呆症を疑っていた。 ルイズには地下牢でオークに殴られてからの記憶がはっきりしていない。 タバサが言うには、ミス・ロングビルはオールド・オスマン不在の間、学院に異常がないか監視するように言われていた。 夜間外出したルイズを見たロングビルが、マルトーに話を聞き、キュルケとタバサの二人に頼んでルイズを追いかけたそうだ。 破壊された別荘のテラスにルイズとシエスタを発見し、すぐさまシルフィードで助け出したが、ルイズは気を失っていた…という事らしい。 窓から別荘の廊下を見たタバサは、風を使うメイジとルイズが戦ったのではないかと分析した。 キュルケは、ルイズは前兆のない『爆発』を起こせると知っているので、タバサの考えに異論を挟まなかった。 ほかの生徒たちはルイズが何をしたのかまでは知らされていないが、おそらくルイズがほかのメイジと戦えば惨敗すると思っているだろう。 何よりも驚いたのは、オークに立ち向かうルイズの話だ。 杖のないメイジがオークに立ち向かうのは自殺行為と言える、しかし、シエスタを守ろうと自ら危険な役を引き受けたという。 キュルケにとって、ルイズを含むヴァリエール家は宿敵だが、ルイズに対しては友情に近い感覚が芽生えている、すでに彼女は『ヴァリエール』ではなく『ルイズ』と呼んでいるのだから。 もっとも、本人はそれを否定するだろう、素直になれない友人に、少しだけ苦笑いするタバサだった。 「…いけない」 突然、タバサが立ち上がった。 タバサの表情は変わらなかったが、いつになく緊迫した雰囲気が漂っている。 その様子に驚いた三人は、タバサから目が離せなかったが、遠くから響く夕食終了の鐘の音を聞いて、慌てて食堂へと移動した。 「あちゃー、片づけられちゃったわね」 そう言いながらテーブルを見渡すキュルケ。 タバサは誰かが食べ残した食事を見て、自分の好物が無惨にも残されているのに気づき、少し腹が立った。 ルイズも空腹感はあったが、ちょっと疲れているので、いつものコッテリとした夕食を思いだし、食べなくても別に良かったかなと考えた。 そんな三人にシエスタは、おそるおそる話しかける。 「あの、私、料理長に掛け合ってみます」 「いいわよ、遅れたのが悪いんだし、規則は守らなきゃね」 ルイズはシエスタを庇うように言う、そうでもなければシエスタは自分のせいだと思いこんでしまうからだ。 「あら、いいじゃない、たまにはぬるいスープじゃなくて作りたてを食べたいわよ」 「ハシバミ草大盛り」 キュルケとタバサの遠慮のない言葉に苦笑いするルイズだったが、シエスタは嬉しそうに微笑んでいた。 シエスタが交渉する間もなく、ルイズが来たと聞いた料理長によって、三人は厨房へと招かれた。 料理人たちの食事である『まかない』を作っている最中だったが、その香りにキュルケとタバサは鼻をひくつかせた。 「美味しそう」 グー… タバサが小さく呟くと、タバサのお腹がグーと鳴った。 「何よ、タバサったら食いしんぼ…」 グー… 続いてキュルケのお腹も鳴る。 「二人ともお腹すいてるんじゃない」 グーー そしてルイズのお腹がひときわ盛大に鳴り響いた。 「あんたが一番」「食いしん坊」 ルイズは、キュルケとタバサに言い返すことも出来ず、顔を真っ赤にした。 「ほっほっほ、お前たちもつまみ食いに来たか?」 厨房の奥から出てきた意外な人物は、三人を見ると嬉しそうに声をかけた。 オールド・オスマンである。 オスマンは三人を厨房の奥のテーブルへと招くと、そこには厨房で働くメイドや料理人達がいた。 オスマンはテーブルの端に座ると、キュルケ、タバサ、シエスタ、ルイズの席を々席に着くように促す。 貴族嫌いのマルトーが仕切る、普段の厨房の様子からは考えられないほど、ルイズ達は好意的に迎えられた。 「ええと、ヴァリエール公爵嬢様、シエスタを助けてくれて、本当に、ありがとうござい…ます」 「ほっほっほ、マルトー、お前が敬語を使ったら雨が降るわい」 オスマンが笑うと、マルトーは頭を振って、少し恥ずかしそうにした。 「ミス・ヴァリエール、魔法学院で学ぶ生徒達は、国家の宝であるとは何度も申しておるな。ここに居る料理人達やメイド達も、魔法学院にとっての宝であることに代わりはない。貴族の横暴によって損なうことなど、決してあってはならん」 料理人やメイド達、そしてルイズ達もオスマンの話を神妙に聞いている。 「魔法学院の長として、ワシからも礼を言わせてもらうぞ、ミス・ヴァリエール。『身分に応じた責任を負う』それがメイジを貴族たらしめる理由じゃ。今回の件は国家預かりになっておるが、ワシは勇気ある行動を尊敬するぞ」 ルイズはオスマンの言葉に驚いた。 ほかの料理人、メイド達までルイズにお礼を言い始めたので、更に驚いた。 今までに感じたことのない、むず痒い気持ちに困惑してしまう。 子供の頃から魔法が使えず、メイジとして失格とまで言われてきた。 しかし今はどうだ、『貴族』として尊敬を受けているのだ。 「さあ、お友達の二人も食べていってくれ、腕によりをかけたんだ!そうだ、おいシエスタ、34年もののワインがあったな、あれを三人に出してくれ」 マルトーが威勢の良い声で料理を作り、そして運ぶ。 次々にテーブルの上を彩っていく料理の数々に、キュルケは素直に感心した。 「何よ、これがまかない料理って奴なの?…美味しいじゃない、あんたたち厨房でこんな美味しいもの食べてるなんてずるいわよ」 タバサも無言で食べ続ける、心なしかいつもよりペースが速いぐらいだ。 「ところでマルトー、せっかくじゃから、ワシの分もワインを…」 「ちょっと、学院長、またミス・ロングビルに怒られますぜ」 「彼女は城下町に用があって出かけておる、酒は別れによし再会によしと言うじゃろう、ここにいるヴァリエールがおらねば、シエスタと再会できなかったかもしれんのじゃぞ?野暮なことを言わずワインを出しなさい」 「そこまで言うなら、アッシも飲ませてもらいますぜ!」 「ベネ!」(良し!) 妙にノリの良い学院長の一言で、全員に振る舞われる酒。 ルイズは、自分が記憶を失っている間に何が起こっていたのか、これから先どうなってしまうのか、姫様から頼まれた用事を前にしてこんな事をして大丈夫だったのか… 等々、いろいろな事が頭を駆けめぐった。 だけど、今はとにかくこの時間を楽しもうとして、ワインをあおった。 ワインは確かに美味しいものだったが、この楽しい雰囲気と、マルトー特製の料理は、酒の肴にするには勿体ないと感じた。 そして飲み過ぎた。 翌日、シエスタは恥ずかしそうに、四人分の布団と下着を洗っていたとかいないとか。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-13]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-15]]}
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サモン・サーヴァントに『爆発して』失敗するルイズは、学院長の取り計らいによりトリスティン魔法学院の二学年として授業を受けている。 本来ならサモン・サーヴァントすら成功しないルイズは、使い魔を召喚するまで進級できないはずだが、オールド・オスマンはルイズの『爆発』に目を付けた。 『彼女はすでに新種の使い魔を呼び出しているのではないか?』 そう言って、オスマンはルイズの進級に反対する教師達を黙らせていた。 実際には、土塊のフーケと戦った時の痕跡から、何らかの使い魔を呼び出していることは予想していたが、その確証はない。 温情と言えば聞こえは良いが、オスマン氏はルイズに、執行猶予を与えているとも言えるのだ。 ルイズは自分部屋で、腕から伸びる半透明の『腕』を見た。 おそらく自分の使い魔であろうこの『腕』は、五体が揃っているのは感覚で理解している、しかし今はまだ『腕』だけしか自由に動かせない。 ベッドに座ったまま、エルフの使う『先住魔法』のことを思い出した。 エルフは杖も使わずに魔法を使うとか…もしかしたら、これはエルフの使う『先住魔法』なのではないだろうか。 この腕は、障害物をすり抜けられるくせに、ものを掴むことができる。 しかも精神を集中すれば、半透明な状態で人に見せることが出来る、これはキュルケとタバサが確認した。 これを使い魔だと主張するにあたって二つの問題がある。 一つは、前例のない『これ』が使い魔として認められるのか分からないこと。 もう一つは幽霊騒ぎの件だ、キュルケとタバサが目撃した幽霊は明らかにこの『腕』だ。 幽霊騒ぎは、トリスティン魔法学院を一時混乱に陥れ、キュルケとタバサ(と自分)を驚かし、ちょっと人には言えないような恥ずかしい目にあわせのだから。 マリコルヌを全力でブチのめした後、二人にこんな事を言われた。 「幽霊の正体があんたの使い魔だってバレたら…全生徒から恨まれるでしょうねぇ~♪」 「…使い魔の不始末は主人の責任」 キュルケはルイズの弱みを握って気分を良くしていたが、タバサからはシャレにならない殺気を感じた。 とにかく、今のルイズには、部屋でため息をつくことしか出来なかった。 その晩、ルイズの部屋を誰かがノックした。 間を置いて叩かれる回数に、誰が訪問したのか気づき、客を迎えた。 「こんばんは、ルイズ」 「姫様、今日、ここに来られたということは…」 アンリエッタはいつものようにディティクト・マジックで部屋を調べてから、フードを脱いだ。 子供の頃のように、ルイズの隣に座る。 「ゲルマニアの皇帝に、書簡が届き、その返答が送られてきました。内容は私を正室(正妻)として迎えるとの事です」 「………そう、ですか…」 しばらく、沈黙が流れた。 「…思い過ごしならば良いのですが、一つだけ腑に落ちないのです。わたくしの婚約だけではなく、軍事的な提携に関しての要求書も添えられていたはずなのです、それはトリスティン側に有利な内容です。本来なら…わたくしの婚約だけでは見合わない内容でしょう」 ルイズはじっとアンリエッタ姫の話を聞いていた。 姫が言うには、トリスティン側が望む婚約の条件が、かなり高い状態であること、それにより婚約を引き延ばしできると考えたが、ゲルマニアは条件をすべて呑むということ。 アルビオン貴族派がトリスティンへ侵攻を開始した場合、おそらくゲルマニアは何か理由を付けてトリスティンを見捨て、国力が低下したところでトリスティンに介入、そして王族と貴族をゲルマニアの支配下に置く… アンリエッタとマザリーニ枢機卿は、ゲルマニアにすら不信感を抱いていた。 ルイズは知らなかったが、アンリエッタはマザリーニのことを嫌っている、しかし今回の出来事はアンリエッタに危機感を抱かせ、図らずしてアンリエッタとマザリーニの政治的信頼は強くなっていたのだ。 一通り政治の話をしてから、アンリエッタはベッドから立ち、懐からトリスティン王家御用達の紙を取り、ルイズのペンを借りて書状を書き始める。 そのときのアンリエッタの表情は恋する乙女のそれでありながら、どこか陰のある姿で、胸の奥の悲痛な思いを一文字一文字に込めているようだった。 「ルイズ、この手紙をアルビオンのウェールズ皇太子に届けて欲しいのです、アルビオンの貴族派は王都を囲む準備を整えたと言われています、王城に攻め込まれる前に…」 「しっ!」 ルイズはアンリエッタの言葉を遮った。 扉の外から気配を感じ、誰かが扉の外で聞き耳を立てているのが分かる、これはルイズの感覚ではなくスタープラチナの聴覚だが、ルイズはまだ自覚できない。 アンリエッタをカーテンの後ろに立たせてから、ルイズは扉を勢いよく開けた。 「どわっ!?」 ごろん、と転がり込んできたのは、青銅のギーシュ、正しくは『ギーシュ・ド・グラモン』だった。 転がりつつも薔薇の造花を手に持つ根性は見上げたものだが、ルイズは扉を閉めながら(二股のギーシュがのぞき見のギーシュに格上げね)などと考えた。 「何やってんのよあんた」 ルイズの質問に答えようともせず、ギーシュは立ち上がり、薔薇の花を両手に持ち直してこう言った。 「薔薇のように麗しい姫さまのあと追っておりますれば、こんな所へ……、下賤な学生寮などで万が一のことがあってはと、鍵穴から様子をうかがっておりましたところ…」 「ふーん、要はのぞき見? 重罪よね」 そう言ってルイズはアンリエッタを見る、アンリエッタは困ったような表情でルイズを見たが、『とても楽しそうな』笑顔を見せていたので、アンリエッタはルイズの意図を汲んだ。 「そうですね…公式な訪問ではないとはいえ、先ほどの貴方の言葉を借りれば、私をアンリエッタと知りながら後を追い、そして部屋を覗き見したと言うことになります」 「姫さま、非公式とはいえ姫殿下訪問の御席は、王宮に準じると聞いています、故意に不作法を働いたのであれば侮辱にあたると存じ申し上げます」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの進言、この部屋の主たる責を負ってのものとして真摯に受け取ります、ではこの者に一級以上の罰を与えねばなりませんね」 ギーシュは顔を真っ青にした。 この世の終わりのような顔とは、こういうのを言うのだろうか、二股がバレた時とは比べものにならない。 ルイズは内心で「やりすぎたかな?」と考えたが、たまには良い薬だろうと思って何も言わなかった。 「ルイズ、この者の名は?」 「グラモン元帥のご子息、ギーシュ・ド・グラモンでございます」 「では…」 アンリエッタはギーシュの前に手を出した、貴族の作法で言えば、手に口づけを許すという事だ。 呆然としていたがギーシュだったが、差し出された手の意味に気づくと、さっきまで死にそうに震えていた男とは思えない程うやうやしく、手の甲に口づけをした。 「では貴方に罰を与えます、私の…アンリエッタ姫としてではなく、ルイズの友人としてのアンリエッタに、力を貸して頂きたいのです」 「任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」 ギーシュの言葉にアンリエッタは微笑む。 「ありがとう。貴方のお父さまも立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいでおられるのですね。…この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」 「姫殿下がぼくの名前を呼んでくださった! 姫殿下が! トリステインの可憐な『薔薇の微笑みの君』が、このぼくに微笑んでくださった!キャッホー!」 感動のあまり、立ち上がってわめき散らし、後ろにのけぞって転び、後頭部を打つギーシュ。 それを見たアンリエッタは「ルイズの友人もおもしろい人ばかりね、うらやましいわ」と心底うらやましそうに言った。 ルイズは、まるで看守にマスターベーションを見られた徐倫のように、嫌そ~~~~~な顔をしていた。 アンリエッタ姫を見送った後、ギーシュは股のあたりを気にしながらヒョコヒョコと部屋に帰っていったらしい。 「そりゃ怖かったでしょうね…」 ルイズは、誰に言うわけでもなく呟いた。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-15]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-17]]}
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ルイズ、タバサ、モンモランシー、ギーシュ。 この四名は学院長室で『土くれのフーケ襲撃事件』について、事細かに質問された。 暗くじめじめとした場所で涼んでいたカエル、モンモランシーの使い魔ロビンが、不審な人物を発見したのが事件の切っ掛けだった。 主人に異変を知らせたロビンは主人の到着を待ったが、ここで困ったことが起きた。 使い魔は主人の目となり耳となる。しかし、それはメイジが実力で使い魔を従えている場合と、メイジと使い魔がお互いを信頼している場合である。 使い魔品評会の日、モンモランシーは気が気ではなかった。 香水のモンモランシーの名の通り、彼女は水系統のマジックアイテムを調合する技術に優れたメイジだが、使い魔にさせる芸はとんと思いつかない。 ロビンが異変を伝えたのは、使い魔品評会が始まって間もない時だった。 使い魔のロビンが姿を見せないので、不機嫌だったモンモランシーには「ロビンが何かを伝えようとしている」程度にしか分からなかったのだ。 急いで宝物庫周辺にいるロビンを探しに行ったが、そこに居たのはフードを被った怪しい男。 モンモランシーはロビンを探していたので、不審な男に気づきはしたが気には止めなかった。 だが、男は、自分が盗賊であると気付かれた、と思いこみ、モンモランシーを拘束したのだ。 男は小型のゴーレムでモンモランシーを殴って気絶させ、手足を錬金した鉛で拘束した。いざという時の人質になると考え、ゴーレムでモンモランシーを運ぼうとしたときに、モンモランシーを追ってきたギーシュに発見されたのだ。 ギーシュは焦っていた。 何せ下級生女子のメイジに声を掛けられ、少し話し込んでいただけなのに、偶然横を通りかかったモンモランシーが血相を変えてで走り去って行ったからだ。 モンモランシーは使い魔のロビンを探しに行っただけだが、ギーシュは『また嫌われた』と思いこみ、慌ててモンモランシーを追いかけた。 そして、後はルイズの知るとおりである。 大怪我した者もおらず、一件落着かと思われたが、オールド・オスマンは神妙な面持ちを崩さなかった。 「だいたいの事情はわかった。しかし災難じゃったのう」 「いえ、このギーシュ・ド・グラモン、薔薇の刺が花を守るように、当然のことをしたまでです」 キザったらしい態度を、隣に立つモンモランシーに見せつけつつ、ギーシュが答える。 「………」 隣に立つモンモランシーは赤面し、目をウルウルさせている。キザったらしい態度は逆効果な気がしたが、どうやらモンモランシーにはストライクだったらしい。 ルイズはモンモランシーの隣で、心底嫌そうな表情をした。 オスマン氏は、ほっほっほと笑い、話を続けた。 「ミス・ヴァリエール、そしてミス・タバサ、君たちもご苦労じゃった。 危険を顧みずに立ち向かう行為は、誇り高い行為と言えるじゃろう。 しかし、貴族は魔法で領民を守るだけでなく、領地を治めることも意識せねばならん。 死を覚悟するのはかまわんが、無謀と勇気をはき違え、領民を混乱させるようなことがあってはならんのじゃぞ」 「「「「はい」」」」 四人は同時に答えた。 「さて、もう一つ、土くれのフーケが処刑されたという話じゃが…あれは偽物じゃ」 モンモランシーは驚いたが、他三人は特に驚きもしなかった。 土くれのフーケ操る巨大ゴーレムを破壊したのは、他ならぬ”本物の”土くれのフーケだ。 土くれのフーケは有名になりすぎ、既に二名の偽物が逮捕されている。 オスマン氏の話によると、今回の事件で逮捕された男は『鉛のゴーゾ』という男らしい。 その男が『土くれのフーケ』という名前を使い、一連の盗難事件を起こしたとして、処刑されたというのだ。 偽物を本物として処刑する。何かの作戦なのか、貴族達の面子からなのか、おそらく両方の思惑が絡んでいるのだろう。 不意に、オスマン氏が杖を振った。 バタン!と扉が開かれ、聞き耳を立てていたキュルケが、ごろんと転がり込んできた。 「ミス・ツェルプストー、盗み聞きはいかんぞ」 オスマン氏は呆れたように言った。 キュルケはばつが悪そうにしていたが、開き直って、オスマン氏に詰め寄る。 「このまま本物の土くれのフーケを放っておいて良いとは思えませんわ」 「…ほう?この部屋はサイレントの魔法で包まれておる。ミス・ツェルプストーはそれを打ち消せると言うのかね?」 オスマン氏の疑問に答えるかのように、タバサが「私がもう一体のゴーレムの話をしました」と言った。 オスマン氏は「なるほど」と言って頷くと、ここに集まった五人意外には口外無用だと伝えた。 「それにしても喧嘩するほど仲が良いとは、よく言ったものじゃのう。持つべき者は親友じゃわい」 そう言ってルイズとキュルケを見比べるオールド・オスマン、それに気付いた二人が 「誰がこんな奴と!」「誰がこんな奴に!」 と同時に叫んだ。 その様子を見たモンモランシーとタバサが「仲が良いじゃない」「類は友を呼ぶ」などと言って、 ゼロ(爆発)vs微熱の、学院史に残る戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。 オスマン氏が「うまく誤魔化せた」とほくそ笑んでいたのは秘密だ。 かくして、土くれのフーケ事件も終え、一応の平穏が戻ったトリスティン魔法学院だが。 とても『魔法』学院とは思えないような奇妙な噂に、教師は頭を抱えていた。 幽霊騒ぎである。 事の起こりはこうだ。ある日の夜、お手洗いに行こうとした女生徒が、廊下を歩く幽霊を見たのだ。 最初は誰も相手にしなかったが、目撃者が増えるにつれ、その噂は信憑性を増していった。 もう一つは、謎の『小物紛失事件』である。 夜眠っている間に、部屋にある道具が移動している。 最初は使い魔の悪戯かと思われていたが、 魔法も唱えていないのに宙に小物が動いたとか。 魔法の気配もないのに扉が開いたとか。 誰もいないはずの廊下で何かにぶつかったとか。 そんな体験談を話す生徒が増え、ついに幽霊退治の話が持ち上がった。 「で、何で私が手伝わなきゃいけないのよ」 ルイズの部屋には二人の客が居た、キュルケとタバサである。 「得体の知れない相手には得体の知れない魔法が聞くかもしれないじゃない」 「な、何よその言いぐさはぁ!」 タバサは喧嘩の始まりそうな二人を制止してから、ルイズに頼んだ。 「貴方の力を借りたい」 タバサの言い分ではこうだ。キュルケのファイヤーボールは相手に向かって飛んでいく。自分の風の魔法は小型の竜巻も起こせるが、発生の予兆を関知されるおそれがある。 それに比べてルイズの魔法は、杖を持って呪文を唱えるだけで、突然爆発する。 爆発の予兆は他の魔法に比べて判別しづらい…らしい。 「それにこの子、幽霊とか苦手なのよ」 キュルケが言うと、普段感情を見せないタバサにしては珍しく、キュルケを恨めしそうに見つめた。 黙っていて欲しかったらしい。 ルイズにしても幽霊には良い思い出はない。 アンリエッタ姫と遊んでいた頃、姫を驚かそうとシーツを被り、幽霊のフリをしたことがある、 困ったことに姫も同じ事を考えており、シーツを被った二人は廊下で鉢合わせして、仲良く気絶してしまったのだ。 そんな負い目もあるので、ルイズは幽霊退治を引き受けることにした。 「で、どうするのよ」 ルイズが質問すると、体より大きい杖をカツッと地面に突き立て、タバサが答えた。 「三人で行動、幽霊を発見したら全力で殲滅」 「ちょ、ちょっと…」 さすがのキュルケも焦る。こんな過激なことを言うとは思わなかったからだ。 それにタバサの実力もある程度は知っている。覚悟を決めたタバサと、ルイズが全力を出したら、建物が半壊、いや全壊してしまうのではないかと危惧した。 「そ、その前に、本当にそれが幽霊なのか確かめてからにしなさいよ」 ルイズも冷や汗をかきながら提案する。それぐらいタバサの覚悟には迫力があった。 タバサはしばらく考えてから、渋々頷いた。 そんなわけで、その日の夜から、ルイズ・タバサ・キュルケによる見回りが始まった。 タバサは風の魔法で周囲を探知、キュルケは日の魔法で暗がりを照らし、ルイズはその後をついていくだけだった。 見回りの最中、半裸の女生徒と男子生徒、頬を染めて抱き合う女子生徒二人、頬を染めて抱き合う男(略等々、余計な者を発見してしまうことも多かった。 ただ、見回りが功を奏したのか、見回りを始めてから幽霊を目撃したという話は出なかった。 一週間目のことだ。ルイズは半ば呆れていたが、キュルケとタバサは至って真面目に幽霊を探していた。 タバサは幽霊が苦手なだけでなく、幽霊を見たと言っていたので、意地になるのは分かる。 しかしキュルケが毎晩タバサと行動を共にするのを見て、少しばかり羨ましく感じていたのも事実なのだ。 呆れながらも行動を共にしてくれるルイズに、言葉にはしなかったものの、キュルケとタバサは感謝していた。 「ふわ……」 最後尾で欠伸したルイズに、キュルケが気づき、今日は終わりにしようと提案した。 タバサは無言で頷くと、部屋に戻るための最短距離を選び、歩いていった。 ルイズは廊下から外を見た。空には月が二つ浮かんでいる。 月を見ると思い出す。加速した世界の中で闘っている自分…いや、自分ではない誰かを。 不意に、頭を真っ二つに切り裂かれる瞬間が思い浮かぶ。 その時は、自分の精神エネルギーも一緒に切り裂かれていたはずだ。 真っ二つに切り裂かれたそのエネルギーの名前は、確か『スタープラチナ』 ギーシュとモンモランシーが潰されそうになった時、不意に叫んだ名前と一緒だ。 ルイズは背筋が寒くなり、歩みを止めた。 「ルイズ?」 ルイズが歩みを止めたのに気付き、キュルケが後ろを振り向く。 タバサもそれにつられて振り向いた。 「…あ、何でもない。ちょっと考え事してただけよ」 そう言ってキュルケとタバサに近づこうとしたが、どうも二人の様子がおかしい。 キュルケは褐色の肌が黒く見えるほど顔を青ざめ、 タバサは白い肌が真っ白になるほど呆然としている。 そして、二人とも、ルイズではなく…ルイズの後ろを見ていた。 ルイズが後ろを振り向いてカンテラを掲げると… 顔を真っ二つに切り裂かれた大男が ルイズの持ったカンテラに照らされて 半透明でぼやけた姿を漂わせていた ドカン! 突然の爆音と共に、使用人部屋の扉が吹き飛ばされ、シエスタは飛び起きた。 それと同時にシエスタの体に、何かがぶつかってきた。 「 ! ? !!!! ??? !?」 突然体を拘束されてパニックに陥りそうになるたシエスタだが、 月明かりによって、ルイズと他二人の貴族に抱きつかれているとすぐに気が付いた。 ガクガク、ブルブルと震えてた三人に抱きつかれたまま、シエスタは朝を迎えることになる。 翌日 厨房付きのメイド、シエスタは ルイズ・タバサ・キュルケ三人の貴族の極秘命令により 三人の下着を洗濯することになったとか。
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ 3章 (28)モット伯爵の好意 続いてオスマンは、マチルダにワルド子爵が如何様にしてアルビオンを支配するに至ったのか、その経緯を問いかけた。 これに対しマチルダは、先ほどの自信に満ちた顔つきとは違う様子、幾ばくかの緊張をもってそれを話しを始めた。 ニューッカスル落城後に一時消息を絶ち、その後、唐突な帰還を果たしたワルド。 しかし、再びマチルダの前に姿を現したワルドは、それまでの彼とは違う、得体の知れない別の何かへと変貌を遂げていた。 姿や声、仕草は変わっていない。けれどその言動や行動はそれまでと全く違うものとなっており、何よりも不遜なほどの自信に満ちあふれていた。 実際に彼はマチルダにとって理解の範疇を超えた、尋常ならざる力を身につけており、そして更にはその力を使ってアルビオンの支配に乗り出したのである。 まずはクロムウェルを抹殺し、その上で意のままに動く『動く死体』として復活させると、彼はそれを皮切りにしてレコンキスタ内部の指導者達を次々に懐柔するか、クロムウェルと同様の処理を施して味方として取り込んでいった。 そうしてマチルダが気がついたときには、神聖アルビオン共和国はワルドを支配者とする、死者の王国へと作り替えられてしまっていたのである。 そしてワルドが更にはアルビオンだけではなく、ガリアにまでその手を広げようとしていると知ったとき、マチルダはこう考えたのである。 「このまま彼に付き従っていれば、やがて自分も殺されて動く死体の仲間入りをさせられてしまうのではないか」と。 日に日に増してゆく危機感に耐えながら機会を窺っていた彼女が、トリステイン攻撃の隙を見計らって、アルビオン脱出を決行したのは必然の流れであった。 聞く者には荒唐無稽としか聞こえないこれらの事実を、マチルダは真実味あるものにすべく、身振り手振りを用いて熱意を込めて、丁寧に説明した。 しかし、どれほど懸命に語ろうともこのような話、彼女の言葉だけですんなりと信じられるものではない。 円卓の参加者達の間に、どの様に反応を返すべきか迷うような空気が流れ始める。 すると、オスマンはそのような空気を無視するようにマザリーニ枢機卿の右席、つまりエレオノールへと話を振った。 「それではアカデミーの名代として出席されておられるミズ・エレオノールにお聞きいたします。これまでのミズ・サウスゴーダの発言をお聞きになられて抱かれた感想を、率直にお聞かせ願えませんかな?」 これに驚いたのは当のエレオノールであった。 まさか自分に話が振られるとは思っていなかった彼女であったが、そこは責任ある立場にある者。そのような仕草は漏らさず、十分な余裕と優雅さを持って立ち上がる。そして堂々とした態度でオスマンに質問に答えた。 「わたくしとしましては、彼女の話は全く持って陳腐な筋書きの読み物の類、または夢か妄想に基づいたでまかせであると断ずる他ありません」 そうきっぱりと言い捨てるエレオノールの言葉に、思わずマチルダが声を上げそうになる。 しかし、思いとどまる。声を上げることなく、危ういところで飲み込んだ。 今この場で発言を許されているのはエレオノールなのである、わざわざ心証を悪くする必要はない。 「ふむ、結構です、ミズ・エレオノール。どうぞご着席ください。 それでは次に、モット伯爵にご起立願いましょう」 再び自分へ発言の機会が与えられると思っていたマチルダが、ここで腰を浮かしかけた。 その動作をうけて、一瞬オスマンが彼女に視線を向けた。そして、その一瞬でオスマンは彼女に向かって軽く片目をつぶって見せた。 かつて彼の秘書であった頃に何度か目にしたその仕草、それは彼が何か良からぬことを企んでいるときによくみせたものであった。 それを見たマチルダは、一抹の不安を覚えながらも、この場はこの元上司に流れを任せることにした。 「それではモット伯爵。あなたが先の戦役で見聞きしたこと、そのうちの敵と交戦に入った際のことを、この場にいる皆さんに説明して頂けますかな?」 そう物腰柔らかに言った老オスマンに対して、直立に起立したモット伯爵。 カラフルな服装に身を包んだ長身の彼が立ち上がると、それこそ劇場の一幕のようであったが、今彼の顔に浮かんでいる表情は真剣そのものである。 それこそが彼がこの場において発言することの重要性を理解している証左。 「はっ。お答え致します」 そう言って腰を折って一礼するモット伯爵。彼は女王とオスマンに一度ずつ敬礼し、最後にルイズに向かって一段と深い敬礼を行った。 モット伯に敬礼される覚えなど無いルイズは、彼のこの行動に一瞬面食らったが、とりあえず笑って返しておくことにした。 「私と我が軍は女王陛下の……」 と、両手を目一杯に広げて、それこそ演目の主役にでもなったかのように語り始めようとするモット伯。 すかさずオスマンが口を挟む。 「いや、そこは省略して構わんから、敵を見つけたところから言ってもらえんかの」 いきなり前口上を始めようとするモット伯爵を諫めるオスマン。 更にはわざとらしく咳払いするマザリーニ枢機卿という、年輩者二人に促される形で、モット伯爵はしぶしぶ口上を切り上げて、本題を語り始めた。 「夜半過ぎ、私が指揮する兵三百が先行する敵部隊と魔法学院近郊の平原にて会敵、敵指揮官を含む竜騎士二十騎と交戦状態に入りました」 「敵はどの様な姿をした者達でしたかな? 何か特徴は?」 右手に書類を持ち上げながら、手の空いたもう片方で髭を撫でつけるオールド・オスマン。 それは台本を読み上げるように淀みなく流暢で、また、実際にその通りであった。 これはオスマンとマザリーニ、そしてアンリエッタの諮問する側である三人しか知らぬことであったが、彼の手の中にある書類こそは、先日モット伯が女王に報告した内容を筆記した報告書なのであった。 「彼らは二十騎全て、生者に非ず。死して動き回るという、始祖を冒涜する汚らわしき亡者達でありました」 「二十騎全て? 飛竜だけで無く、人まで?」 「はい。飛竜と、それに騎乗する騎士達も含めて全てがこの世に惑った死者達でした」 そう言ったところで唐突に言葉を切るモット伯。 「どうかしたかの?」 「……いえ、一点間違いがありました。交戦中に会話を交わした敵指揮官。彼だけは生きていたのかも知れません」 そう言ったモット伯の拳は強く握り締められ、小刻みに震えていた。 「結構ですモット伯爵。では続いて、再びアカデミー名代のミズ・エレオノールに質問をさせていただきます」 モット伯が着席し、それに入れ替わる形で再びエレオノールが起立する。 「先ほどのモット伯爵の発言にあった動き回る死者達、これに関してアカデミー名代として見解をお聞かせ願いたい」 オスマンのこの発言に対して、エレオノールは口元に手をやり、暫し黙考してから答えた。 「結論として可能、ですわ。水魔法の秘術を用いれば死者を思いのままに操ること、それ自体は不可能ではありません」 「それでは二十騎。しかも竜と人間、両方を同時には?」 当然のように返されたこの言葉に、エレオノールが再びぐっと押し黙る。 一人の死者を操るだけならば、そのような魔法も聞いたこともある。しかし多数の死者を、しかもそれを同時に操るとなると、明らかにそれは系統魔法の手には余るのである。 系統魔法の外、例え先住の魔法を用いたとしても、そのような大規模なものは聞いたことがない。 「系統魔法では、不可能かと思われます。水の精霊の力を借りたとしても、二十、しかも竜まで含めるとなると……私の知る限りの知識にはありません」 先住の魔法はその限りではない、と言外に臭わせておく。決して分からないとは口にしない、何ともエレオノールらしい返答であった。 「結構。ではここで一度、第三者の意見を聞いて見るとしましょう。それではミスタ・ウルザ、次はあなたに質問させて頂きます」 先ほどと同様、エレオノールが着席し、今度はウルザが席から起立した。 二人の長身の老メイジは、一度お互いの顔を見やってから話し始めた。 「ミスタ・ウルザ。あなたから見て、二十騎の竜騎士を死者達でまかなうことは可能ですかな?」 「可能です。オールド・オスマン」 きっぱりと言い切ったウルザ。 この発言にエレオノールは顔を一瞬白くさせて、続いて頬を朱色に染めた。 彼の老人の物言いは時にストレートに過ぎる。 そのことを十分に知るルイズは、面子を潰される形となったプライド高い姉へと恐る恐る視線を這わせる。 しかし、そこにはルイズが予想した怒りの形相は無く、ただ顔を赤くして何か言いたそうにしている姉の顔があるだけであった。 「ほほう! して、それはどの様な手段にて可能なのですかな、ミスタ・ウルザ?」 オールド・オスマンはわざとらしく驚いて、その先を聞いてみせる。 「黒のマナを用いた呪文、その中でも死者蘇生に関する呪文でなら可能でしょう」 「はて、マナとは? マナとは何のことですかな? そしてそれを用いる呪文とはなんのことですかな?」 彼もまた、フーケとは違った種類の役者であった。 「マナとは世界に満ちる魔力の源であり、そしてそのマナを用いるのが『我々の魔法』。術者の精神力を消費して使われる系統魔法とは似て非なる魔法であります」 ウルザの口から飛び出した言葉、マナ、それに系統魔法ではない魔法。余りに突飛な、埒外の話である。 多くの参加者の常識にとってあり得ないそれを、オスマンはたたみかける様にして追求する。 「ミスタ・ウルザ。突然そのようなことを言われても信じることは難しい。できることならそのマナを用いた『あなた達の魔法』を我々に見せて頂きたい」 「……是非もなく」 ウルザはそう口にするとローブの中に手をやり、そこから手のひら大の青い球体を一つ取り出して目線の高さに掲げてみせた。 そしてその球体は、ウルザが掲げると同時、彼の手の中でゆっくりとした回転を始める。 球体が手から離し、それが空中に止まって回転し続けていることを確認すると、ウルザは口の中で小さく呪文を唱えた。 瞬間、円卓の間は白から黒へと暗転した。 一瞬の黒の後、再び目に光が届いたとき、彼らは水中にいた。 足下では海草が揺らめき、鼻先を魚が泳ぐ。それらは正しく、海の中の光景であった。 彼が取り出したその球体、それはウェザーライトⅡのブリッジ中央に据えられた半球体と、似た性質を持つものだったのである。 目の前に広がった異変に対して、驚きに声も出ないもの、声を上げるもの、立ち上がって手をばたつかせるもの、冷静に観察するもの。円卓についていた者達の反応は様々。 「み、皆さん! 落ち着いてください、これは幻です!」 そう言って立ち上がったのは不健康そうなまでに青白い顔をした学院教師コルベール。 確かに、周囲を魚が泳ぎ周り、その他様々な海の生き物たちが漂っているのが見える、しかし、水中であるならば感じるはずの息苦しさや水の冷たさは全く感じない。 少し冷静になって考えれば分かること、今自分たちが目にしているそれが幻であり、別に本当に水中に放り出されたわけではない。 人間とは現金なもので、そうと分かればこの不思議を観察する余裕も出てくる。 なるほど、泳ぐ魚はよく見れば半透明で奥が透けて見えていたし、足で触れたはずの海草や貝には全くその実体がない。 だが、そうして観察するだけの冷静さを取り戻した彼らは、そこが自分の知る海の中とは全く異質な世界であることに気がついた。 まず、海の中だというのにそこには町並みが並んでいたのである。しかも王都トリスタニアにも匹敵しようかというような大きな規模の街がである。 海底に存在する街というだけでも奇異であったが、その住人達の姿はますます奇異である。 その街の住人達の手足にひれがあり、体には鱗があった。魚のような人のような、見たこともない生き物達。 それが、至る所で水の中の町並みを泳ぎ回っていたのである。 人のようで人でない者達、彼らが海中で文明をもって文化を築き、かつこれほどに大規模の都市を構築している。 それは彼らの常識を突き崩し兼ねないほどの衝撃を彼らに与えた。 「ここは、このハルケギニアと繋がっていない世界にの一つ、ドミナリアのヴォーダ海に存在するマーフォーク達の都市エトラン・シース。別名アトランティス」 ウルザの口から紡がれる都市の由来とその歴史、円卓の参加者達は初めて見るその光景と解説を黙って聞いている。 確かに、彼の魔法や見せている映像に得体の知れない不気味を感じる。だが、それ以上に目の前に広がる光景は美しく、ウルザの語る言葉は好奇心を刺激した。 そんな彼らの様子を確かめながら、ウルザは更に球体を操作した。 そして世界は再び流転した。 次に彼らが訪れていたのは、見たこともない木々が生い茂り密生している、薄暗い森の中であった。 薄暗さの原因は、上を見上げれば直ぐに知れた。周囲に生えている樹木の樹高が、普段目にするハルケギニアのそれに比べて。桁違いに高いのである。 樹木に見覚えが無ければ、当然生えている草にも見覚えがなかった。 花をつけているもの、毛が生えているもの、それらは様々な種類のものがあり、競い合うようにそこかしこで群生している。 一様に共通するのはその身の高さ。どれもこれもが百五十サントはあろうかという長身を誇っており、背の低い子供が隠れたなら見つけるのは一苦労に違いない。 また、森の中には、頭上から聞こえる甲高い鳥の鳴き声、聞くだけでその獰猛さに縮みあがりそうな獣の唸り、草木の間を素早く動く小動物の立てる物音と、彼らのこれまで耳にしたことがないような様々な音が響いていた。 彼らがそうして暫くの間、あっけにとられていると、森の中を笛を吹くような高い音が鳴り響いた。 途端。緑色の肌をした筋肉質な体つきをした二人の大男が現れて、木に絡まった蔦を伝わり奥へと飛び跳ねていった。 「ここはファーディヤー、様々な生命が生まれ、そして死んでゆく森の世界」 ウルザは続けて球体を操作した。 次に彼らの目にしたのは、見たこともない建築様式の建物が立ち並ぶ、黄金色に輝く荘厳な都市であった。 注意深く観察した者は、この街が石材と真鍮によって作られており、それがこの黄金色の町並みを作り出しているのだと気づくことができた。 また、彼らをして温度を感じることはできないのだが、見ているそこはよほど高温であるのか、目にする全てが陽炎に揺らめいて見えた。 その街が異様ならば、そこに暮らす人々もまた異様。 道を往く彼らの姿は一見すると人のように見えなくもない。 二本の足で地面に立ち、両の手を振って歩いてる。 だが、その姿を見てもまだ彼らが人間だと思える者は、この場にはいないだろう。ハルケギニア中を探してもいないに違いない。 なぜならば、彼らのその体は全てが金属でできていたのである。 そしてそれもまた真鍮。 つまり、この町は人も建物も真鍮でできていたのである。 「ここは孤独なる主人、ファティマ王女により創造された真鍮の都。憤怒の熱に焦がされる、強大な魔力を内包した街」 その場に止まって回転を続けている球体。ウルザはそこに指をかけ、何度目かになる操作を行った。 次の変化に身構える参加者達。 だが、次の瞬間彼らが目にしたのは未知なる世界ではなく、先ほどまで見ていたものと何ら変わったところのない、トリスタニア王城の円卓の間の風景であった。 魚人達が泳ぎ回る海底都市。 樹木が生い茂り、数々の生命が生きる密林のジャングル。 金属人が生活する真鍮でできた都。 どれもこれもが、彼らが知るハルケギニアには無い光景であった。 そしてそれらは、既に知識の外を飛び出して、常識の外の世界と言っても差し支えないものであった。 そして、彼らを驚かせたのはそれだけではない。 先ほどまで彼らが目にしていた光景を作り出していたウルザの魔法、これもまた彼らが知る魔法知識の中に無いものだった。 「あー、オホンッ」 驚きに声を無くしている一同の中、オスマンだけは驚くことは何も無かったというふうにして、落ち着いた声で喋り始めた。 「ミズ・エレオノール、我々が先ほどまで目にしていたあの光景、如何思われますかな?」 オスマンが口にしたことの意味は一つ。 諮問会の続きである。 この場がどの様な場所であったかを忘れていたのか、口を開いて惚けていたエレオノールは、オスマンのこの言葉で我に返った。 一瞬で気勢を取り戻して椅子から立ち上がるエレオノール。 しかし、その勢いとは裏腹に、彼女の口と表情は先ほどまでとは違い、どこか弱々しい。 「……水魔法の幻か、遠見の魔法の応用かと、思われます……」 そう口にする言葉も最後が虚空へと消えていった。 それも当然だろう、彼女自身が自分の口にした言葉が、どれほど馬鹿げているか分かっていたのだから。 例えスクウェアクラスのメイジであろうとも、先ほどのような緻密で精巧な映像と音響とを、同時に全員に見せるなどという芸当は無理に違いない。 これは言うならば失われた虚無や、先住の魔法の範疇。 アカデミーの手には余ると、そう判断せざるを得なかったのである。 先を続けられなくなったエレオノールが言葉を途切れさせる。 そしてこの沈黙を見取って、口を開く者があった。 これまで進行を静観に徹して一言も発してこなかった議長、アンリエッタであった。 「ミズ・エレオノール。ミスタ・ウルザが使った魔法がアカデミーで研究されている魔法の中にない、このことは確かですか?」 「いえ、しかし、女王陛下……」 「ミズ・エレオノール」 二度目、女王がエレオノールの名前を呼んだ。 そして、諭すような優しい声で、アンリエッタはエレオノールに語りかけた。 「あなたが疑いようもなく優秀な研究員であることは、報告を受けて知っております。 しかし、我々は人、天に比べれば余りに小さな存在。そんな始祖ならざる人の身にあって、知らぬことがあることは当たり前なのです。全てを知り、全てを解き明かし、全てを説明できるなどというのは、人の分を超えた傲慢というものでしょう。 ですから、私はありのままの、人であるあなたに問います。ミスタ・ウルザの使った魔法、それを知っていますか?」 語る目は為政者である以前の、汚れ無き少女の純真さでもって真っ直ぐに、エレオノールの瞳を見つめていた。 自分よりも年下の少女、末の妹と変わらぬ年頃の、貴族として忠誠を誓うべき……女王の眼差し。 宮廷に巣くう貴族達の濁ったそれとは全く違う、ひたむきさと誠実さを備えたその眼差し。 そんなものを向けられては、さしものエレオノールとしても、ありのままを口にする他は無かった。 「……いいえ、私の知る限りにおいては」 今度こそ、はっきりと口にしたエレオノールの言葉。 「それでは、今現在においてアカデミーが彼の言う『魔法』が存在しないと、積極的に否定する根拠は何かありますか?」 暫し考えを巡らせるエレオノール、だが、答えは最初から出ているも同然であった。 「いいえ、ありません」 それを聞いてアンリエッタは頷きを返す。 「それでは、『マナを用いた魔法』の是非に関しては一時保留とします。ミスタ・ウルザは後日、アカデミーに協力して『マナ』を使った魔法についての調査に協力して下さい。 また、当会においては今後、暫定的にその存在を認めた上で進めていくこととします。 オールド・オスマン、こういう形で決着するのが一番手早い、そういうことでよろしいですか?」 その女王の言葉に、今度はオスマンが声を失う番となった。 確かにオスマンはここまで、一つの意志の元に誘導する意図で諮問会を進めてきていた。 あからさまで芝居ががかった仕草もその一環だったのだが、そのような形での進行は本来なら容認されがたいものであるはずである。 しかし、目の前の若き女王は、あえてそのオスマンが演出したこの流れに逆らうことなく、むしろ逆に自ら乗ると言ってみせたのである。 (やれやれ。ただの小娘じゃと思っておったが、これはもしやすると、歴史に名を残すとんでもない賢王になるやもしれんのぅ……) 「……賢明なご判断に感謝を」 胸中はおくびも出さずに、オスマンは言う。 対するアンリエッタは、自分もまた一人の役者であると主張するかのように、ゆっくりと頷いてみせたのだった。 私はあなたに命を救われたのです! おお! 聖女ルイズ! ―――モット伯からルイズへ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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ロングビルは口を半開きにして、呆然としていた。 安宿の一室で、ルイズとワルドがミノタウロスと戦った時の様子を、ロングビルに聞かせていたのだ。 壁に寄りかかっているロングビル、目の前には、ベッドに座り足を投げ出している少女がいる。 この少女が魔法を使わずにミノタウロスを倒したなど、誰が信じられるだろう。 元々知能が高く生命力も並はずれて強いミノタウロス、頭に深い傷を負っていたとはいえ、それを倒してしまうなど普通は信じられない。 だが、ロングビルはそれが嘘ではないとよく解る、ルイズと対峙したとき、ロングビルは鉄の塊を練金で作り出し、ルイズを挽肉同然にしたのだ。 それでも彼女は生きていた。 細い手足のこの少女が、ルイズが獰猛なミノタウロスを倒した姿を想像しようとして……目眩がした。 「どうしたの?」 ベッドの上に座るルイズがロングビルの顔をのぞき込む。 「ちょっと、あんたの無茶苦茶さに呆れてただけよ…まったく、あんたがいりゃトリステインは安泰だねえ」 ロングビルが両手を肩の高さにあげ、掌を上に向けて『やれやれ』というジェスチャーを交えて呟く。 「そうでもないわよ」 それを見たルイズは、少し自虐気味に笑った。 「私はいずれ倒されるわ…誰かにね。私ほど権力者にとって不都合な存在は無いのよ」 「そうかもしれないけどさ」 正直、ルイズが誰かに殺される姿など、想像できない。 虚無の魔法と、吸血鬼の力を持つルイズを殺せる人間などこの世に存在するとは思えない。 仮に強力なエルフが相手だとしたら、ルイズでも危険かもしれない。 しかし、ロングビルの知るエルフはといえば、ティファニアとその母だけ。 温厚で戦いを嫌うエルフが如何に強力な魔法を使ったとしても、シエスタの波紋が吸血鬼にとって猛毒だとしても、ルイズを殺せるとはとても思えなかった。 ルイズは、ふとカーテンの隙間から外を見た、既に夕日が差しており、空は赤くなっている。 「そろそろ外も暗くなるわね……学院に戻らなくていいの?」 「そうだね、じゃあ、あたしはこれで帰らせて貰うわ」 そう言ってロングビルがドアノブに手をかける、ルイズはちらりとワルドに目配せしてから、ロングビルと共に部屋を出た。 廊下で、ルイズはロングビルに耳打ちする。 「ティファニアがね、『危険なことはしないでね』って言ってたわよ」 「…あの子に、会ったのかい?」 ロングビルがルイズの顔をまじまじと見る、ルイズは笑みを浮かべると、いたずらを思いついた子供のような笑顔を見せた。 「私、アルビオンに潜入したって言ったでしょ?そこで…ほら、子供達も元気だったわ」「ああ…そっか、元気ならいいのさ」 静かに笑みを浮かべるロングビル、どこか懐かしそうに目を細めていた。 「まだワルドに知られたくないから、ここで簡潔に言うわ。彼女は私と同じ系統の使い手よ」 「………」 先ほどのはにかみは何処へやら、ロングビルの口元は笑ったままだが、目つきは途端に厳しくなった。 「詳しいことはこの紙に書いてあるわ。読んだらすぐ燃やして」 ルイズは、胸に巻いたボロ切れの中から、宿帳の切れ端らしき紙を取り出し、ロングビルに手渡した。 無言でそれを受け取ると、ロングビルは急ぎ足になり、ぱたぱたと階段を下りていった。 階段を下りていくのを見届けたルイズは、すぐにワルドの待つ部屋に戻った。 ギィ、と不快な音を立てて開かれる扉を見て、ワルドが意外そうに呟く。 「おかえり、早かったな」 「見送るだけだもの」 ルイズは返事をしつつ、ボロボロのマントを放り投げて、ボロ布の下着姿になった。 その姿は、とても貴族とは思えないみすぼらしい姿だが、その眼光は先ほどまでとは違い、鋭く輝いていた。 ルイズは両手を上に上げて背伸びをし、ボキボキと音を立ててながら身長を変化させる。 アンリエッタとの身長差は約5サントほど、それぐらいなら体の中に入った吸血馬と自分の骨だけで調節できる。 それが終わると、今度は髪の毛を引っ張り長さを揃える、そして顔の筋肉を指で押しつつ、表情を確認していく。 宿に入る前に手に入れてきた染料を髪の毛にふりかけ、わしわしとかき回すと、ルイズの髪の毛は深い紫色に染まっていく。 それを見てワルドは、ルイズがアンリエッタに変装しようとしているのだと理解した。 「…凄いな。”フェイス・チェンジ”でも身長までは変えられれないのに。どこからどう見ても姫様じゃないか…ん?」 ルイズの姿は、表情さえ調節すればアンリエッタ姫そのものとしか思えないほどだ。 しかし、魔法衛士として間近でアンリエッタを見ていたワルドには、ルイズの変装には致命的な欠陥があると気づいてしまった。 「”フェイス・チェンジ”みたいに顔も変えられれば便利なのだけど。 ……ちょっとワルド、どこ見てるの?」 「いや……」 ワルドの視線に気づいたルイズが、ワルドを見つめ返したが、ワルドは顔を逸らしてしまった。 「どこ見てたの…?」 ルイズがワルドに詰め寄る。 「いや、何でもないさ、本当に」 ワルドは誤魔化したが、視線は明らかにルイズの胸を見ていた。 「どこ比べてるの?」 「いや。本当に、何も」 その日、安宿の一室から断末魔の悲鳴が上がった。 深夜。 二の月が雲に隠れ、トリステインの空が暗闇に覆われた頃。 女王となったアンリエッタの居室へと、一人の女騎士が急いで足を進めていた。 アンリエッタの居室を警護する衛士は、女騎士の足音に気が付くと、それを制すかのように扉の前に立ちふさがった。 「こんな時間に、陛下に何用だ」 衛士は、あからさまに女騎士を見下した態度で、冷たく言い放った。 「銃士隊のアニエスが参ったとお伝えください。私は、いついかなるときでもご機嫌を伺える許可を陛下よりいただいております」 衛士は苦い顔をした、アニエスはそれを見て「またか」と思った。 アニエスはシュヴァリエを得たが、平民であるが故に、王宮内での扱いは酷く悪い。 女王アンリエッタの身辺警護を担当する親衛隊の肩書きも、王宮内でのやっかみの前では、どこか頼りなかった。 この衛士にもやっかみはあった、魔法衛士隊よりも強い権限を、平民の女傭兵風情が持っていいはずがないと考えていた。 衛士はアニエスを見下したまま、慇懃に言い放つ。 「陛下はお休みあそばされておる、日が昇ってから出直……」 アニエスは、身長で勝る衛士を、無言で見上げていた。 あからさまにアニエスを見下していた衛士の態度、特にその表情が、みるみる恐怖に変わっていくのだ。 いつの間にかアニエスの後ろには、一人の男が立っていた。 マザリーニ枢機卿である。 「君、火急の用だ。陛下にお取り次ぎを願う」 「ハッ!」 マザリーニが静かに言い放つと、衛士は慌てて敬礼し、居室の扉を開いた。 アニエスとマザリーニの二人は、冷や汗をかいている衛士を無視して、静かにアンリエッタの居室へと入っていった。 それからしばらくして、マザリーニ、アンリエッタ、ウェールズの三人が、アンリエッタの執務室に集まった。 ウェールズは寝間着も兼ねられる簡素なシャツに、上着を着てマントを羽織っている。 つい先ほどまでデルフリンガーと話をしていたらしく、デルフリンガーはウェールズが携えて来た。 デルフリンガーをテーブルの上に置くと、鞘から二割ほど刀身を露出させ、デルフリンガーも会話に参加できるように準備した。 それが終わると、コンコンとノックの音が響き、返事を待たずに扉が開かれた。 執務室に入ってきたのは、ボロボロのマントを羽織った女性。 次に入ってきたのはフードを被った男だったが、その男は首に枷が嵌められており、首と右腕が枷でつながれていた。 更にその背中にアニエスが剣を向けている、アンリエッタは驚き「まあ」と呟いて、口元を隠した。 執務室の扉が閉じられると、ウェールズは杖を持ち『ディティクト・マジック』続けて『サイレント』のルーンを唱えた。 外界の音が遮断され、不自然なほどの静けさが執務室を包む。 『よー嬢ちゃん。元気そうで良かったぜ』 「久しぶりねデルフ、姫様も…今は陛下とお呼びすべきかしら。それに皇太子殿下も、枢機卿も、お久しぶり」 ボロボロのフードを外してルイズが微笑む。 それを見て、アンリエッタは思わず席を立ち、ルイズに近寄った。 「ルイズ…心配したのよ、ああ、でも無事で良かったわ」 アンリエッタがルイズに近づいて手を取ると、ルイズは困ったような顔をするばかりで、アンリエッタの手を握り返そうとはしなかった。 「どうしたの?」 「あの…私、しばらくお風呂に入ってないのよ。今の私ちょっと臭いわよ」 アンリエッタが鼻で息を吸うと、確かに汗のような、焦げ臭いような、埃くさい臭いが鼻につく気がした。 「……そ、そんなこと気にしなくても良いですわ」 と言いつつも、アンリエッタはルイズから手を離す、ルイズは仕方がないとでも言うように苦笑した。 「話が終わったら風呂を用意させますわ。それにしても……」 アンリエッタが、フードを被った男に視線を向けると、つられて皆の視線が集中する。 「………陛下も、皇太子殿下もよくご存じのはずよ」 ルイズはそう呟きつつ、男の顔を隠しているフードをめくり、顔を露出させた。 そこにいたのは、裏切り者のワルド子爵その人だった。 「なっ」 ウェールズは咄嗟に杖を手に取った。 執務室が緊張感に包まれ、マザリーニ、アンリエッタの視線も途端に厳しくなる。 「殺気立つのは止めて。とりあえず…そうね、アルビオンに潜入した時のことから説明するわ」 ルイズはそう言って微笑む。 マザリーニは、驚いたままのアンリエッタ、席から腰を浮かせているウェールズの二人に着席を促す。 アンリエッタが自席に着いたのを見届けてから、ルイズとデルフリンガーによる報告が始まった。 井戸水が、洗脳効果を持った水の先住魔法に汚染されていたサウスゴータ地方の都市。 自称6000歳のデルフリンガーが、水の先住魔法から『アンドバリの指輪』を思い出した。 アンドバリの指輪はどんな怪我もたちどころに治す力を持つ、それどころか、死者を操ることも、生きている人間の心を操ることもできるという。 ルイズはワルドに発言を促した、実際に死者が蘇る姿を見ていたのは、この場ではワルドしか居ないのだ。 ルイズが『ディスペル・マジック』で解除した水の先住魔法。 ワルドが目撃した『クロムウェルによる死者蘇生』 デルフリンガーの記憶に残る『水の先住魔法との戦い』 それらの情報は、アンリエッタ、ウェールズ、マザリーニの三名だけでなく、ワルドに剣を向けているアニエスをも驚かせていた。 そもそも、アルビオンの王党派にも落ち度が無かった訳ではない。 ウェールズの父、ジェームス一世は厳格で誇り高い王であった…と言えば聞こえはいいが、若くして王になった時から強烈な貴族権威主義であった。 国力を高めるため、王は崇高な理念を持って自ら機敏な政治を行った…と言えば聞こえは良いが、視点を変えれば独裁色の強い政治であったことも否めない。 反乱軍レコン・キスタ、彼らの革命が成功したのは、クロムウェルの持つ『アンドバリの指輪』の力だけではない、アルビオン貴族達の不満も同時に爆発していたのだ。 トリステインに幻滅し、レコン・キスタの誘いを受けたというワルドの話を聞き、ウェールズは自身の双肩に戦死者の重みを感じた気がした。 更に、ワルドとの戦い、船を吹き飛ばした虚無の魔法、ワルドの母、裏で糸を引いていたリッシュモン、ミノタウロスとの戦い…… 想像を超えた話が、ルイズの口から語られていった。 一通りの話をし終えると、皆は一様にため息をつく。 ウェールズは考える。 家臣達を殺したワルドにも、ワルドなりの事情があった。 ワルドの行った裏切り行為は決して許されることではないし、許してしまうこともできない。 だが、ウェールズは、ワルドにどこか…なぜか同情してしまう。 処刑すべきか、執行猶予を与えるべきか、思うように決考えられない、少しだけ苛つきを覚えた。 マザリーニにしてもそうだ、リッシュモンにはそれなりの信頼を置いていた。 100%信頼していた訳ではない、少なくとも仕事の面では信頼できると思っていた。 だが、ワルドの母が辱められたと聞いたとき、アニエス達の調査によって、ぼんやりと浮かんでいた不自然な金の動きが、はっきりと一つに繋がった。 マザリーニは、自分の甘さを恥じた。 アンリエッタはうつむいていた。 膝の上に置いた手が強く握りしめられ、肩は小刻みに震えている。 アンリエッタの視線がワルドに移るが、ワルドは何も言わず、ただ黙って突っ立っていた。 しばらくの沈黙の後、アンリエッタが口を開く。 「…ワルド子爵の処遇については、後ほど伝えます。しばらくは杖を取り上げ、王宮で監視下に置くことになりますが……ルイズはそれでかまいませんか?」 ルイズは、隣に立つワルドを見る、ワルドはルイズにほほえみを返すばかりで、何も言わなかった。 「ワルドは…リッシュモンに復讐して、死ぬつもりで帰ってきたの。リッシュモンを殺す権利を保障してくれれば何も言うことは無いわ」 「わかりました、アニエス、ワルド子爵を王宮内に監禁し、直ちにリッシュモンの身辺を調査しなさい」 「いや、お待ち下さい」 突然、マザリーニが口を開いた。 「王宮内ではいけません、すぐに気付かれてしまうでしょう。……しばらくの間、石仮面様と共に地下に潜伏して頂けませんか」 マザリーニ提案はルイズにとって有り難かった。 しかしウェールズの表情を見ると、納得がいかないとでも言いたそうな顔をしている。 ワルドは、ニューカッスル城で王党派を百人近く殺したのだ。 それを野に放つなど、ウェールズが納得できるはずがない。 「殿下。私は、ワルドに復讐を果たさせると約束しました。ワルドの処刑はそれまで待って頂けませんでしょうか、決して逃がしはしません。」 ルイズがウェールズに向き直る。 ウェールズは目を閉じた。 死んでいった家臣達を思い出す。 彼らは、ウェールズの決断を許してくれるだろうか? 家臣達は想像の中でただ微笑むばかりで、何も言ってはくれない。 残されたアルビオン王族としての重責、それがウェールズの肩に重くのしかかった。 「…『石仮面』殿を…いや、友人としてミス・ルイズを信用しよう。ワルド子爵の処遇は僕から口出ししないことにする」 「僕は、ワルド子爵の行いを許すことはできない。また彼の汚名を返上することは許さない。だが……君を憎みきれないのも確かだ」 「戦艦『ロイヤル・ソヴリン』の艦長を務めたサー・ヘンリー・ボーウッドという男がいる。彼は職務に忠実な軍人だからこそ王軍に牙をむいた」 「憎むべきは戦争だ、君個人を憎んでどうにかなるものじゃない…僕が言いたいのは、それだけだ」 ワルドは、ただ黙ってウェールズに跪いた。 すべての話が終わる頃には、既に空は明るくなっており、居室に戻ったアンリエッタを身支度を調える侍女達が迎えていた。 結局彼らは一晩中会議をして、徹夜してしまったのだ。 若いアンリエッタとウェールズはともかかく、マザリーニは眠そうに欠伸をしながら部屋に戻っていった。 ワルドは手かせを外されたが、顔を隠した状態で王宮の地下倉庫に匿われている。 そこで昼を寝て過ごし、夜になったらルイズと共に城下町へと出る予定なのだ。 ルイズは、王宮に務める兵士達が使う水場で、体の汚れを落とした。 用意された平民風の着替えを着て、厚手のローブを身にまとう。 そして、そのままウェールズの部屋を訪ねた。 ウェールズは徹夜の疲れをみじんも見せず、来客に応対していた。 各地に散らばったアルビオン王党派の貴族と連絡を取り合い、レコン・キスタ打倒の計画を練らなければならない。 ウェールズに、休んでいる暇など無いのだ。 ルイズを部屋に通したウェールズは、部下に命じて人払いをする。 ルイズはデルフリンガーを背負ったままウェールズの部屋に入り、ソファに腰掛けた。 向かい合わせに座ったウェールズが、ふぅー…と長いため息を吐く。 「だいぶ疲れてるわね」 「まあね。……君こそ疲れてないのかい?」 「ミノタウロスでお腹いっぱいよ」 「やれやれ、その体力は羨ましいな……」 ウェールズはまた欠伸をして、目をこすった。 子供の頃に遊んだ友人達は皆死んでしまった、海賊に扮してお互いに笑いあった仲間達も皆死んでしまった。 今、ウェールズが欠伸をするほど気を許せるのは、ルイズとアンリエッタしか居ない。 ルイズは、そんなウェールズを不憫に思ったが、不憫だと口に出すことはかえって失礼だと思い、黙っていることにした。 侍女の持ってきた紅茶を一口飲み、カップをソーサーの上に置く。 ほんの少し、沈黙が流れた。 「大公に、忘れ形見がいたわ」 「…なんだって?」 ルイズの呟きは、ウェールズを一瞬で覚醒させた。 「名はティファニア。大公の娘さんよ、今はサウスゴータ地方で、小さな孤児院を開いて隠れ住んでいるわ」 「そ、それは、本当なのか?」 「本当よ。直接会ってきたもの」 「そうか…」 ウェールズが顔を押さえて、俯いた。 「ねえ、これは絶対に約束して欲しいの。ティファニアを権力争いに巻き込まないで。いずれ彼女の存在は知られると思けど。それまでは彼女を争いに巻き込まないで欲しいの」 「ああ、解っているよ、解っているとも。 アンリエッタにも、マザリーニ枢機卿にも言わなかったのは、それを心配してのことだろう?」 「ええ」 「心配も無理はないさ。用心に越したことはない」 「そうね。ハーフエルフだと知られたら大変だものね」 「………」 ウェールズの顔は、『美男子が台無しだ』と思えるほど、驚きに染まっていた。 「そんな顔して驚かないでよ。彼女から聞いた話を全部話すわ、だからよく聞いて」 ウェールズが頭を振って気を取り直す、すぐさま『サイレント』と『ディティクト・マジック』を唱え、ルイズに続きを促した。 ルイズの口から語られたのは、ウェールズにとって驚くべき”真実”であった。 大公がエルフを妾にしていただけでなく、娘までいたという事実。 確かに『始祖ブリミルへの重大な反逆』だと言われれば、それまでかもしれない。 しかし、目の前には吸血鬼と化していながら人間に味方するルイズがいる。 ウェールズは、エルフに対する認識を改める必要があると感じた。 「それと、貴方から預かっていた『風のルビー』。それとニューカッスルから脱出したときに持っていた『始祖のオルゴール』これもティファニアに預けてあるわ」 「それは虚無の使い手である、君が持っていた方がいいんじゃないか?」 「いいえ、私の分はアンの持っている『水のルビー』と『始祖の祈祷書』よ。『風のルビー』と『オルゴール』は彼女が持つべきモノなの」 「まさか」 「そのまさかよ。王族の血を継承しているが故に…ね」 ウェールズはしばしの間思案し、呟く。 「ハーフエルフか…ロマリアが黙っていないな。ダングルテールの大虐殺の件もある…」 「アニエスもダングルテールの大虐殺を調べてるとか言ってたわね。それって何なの?」ルイズの質問に、ウェールズは言いにくそうに口ごもったが、意を決したのかルイズを見据えて語り出した。 「ダングルテールという村があった、そこはトリステインには珍しい移民中心の村だったそうだ。その村で流行した疫病を広げないために、村人が全員焼き殺された」 「……何よ、それ。アニエスがそれを調べてるってことは、もしかして」 「彼女の出身地はダングルテールらしい。僕も最近知ったことなので詳しくないが、どうもロマリアの先代教皇がそこに絡んでいるらしい」 ロマリアと聞いて、ルイズが首を捻る。 「なぜロマリアが関係するのよ」 「二十年近く前、トリステインとアルビオンで新教が流行ったんだ。ダングルテールの住人は新教に鞍替えしたんだが…どうやらそれが原因で異教徒狩りの標的にされたらしい」 「じゃあ、疫病が出たと言うのは?」 「アニエスは全くの嘘だと言っていた。ダングルテールに出入りしていた行商人からの証言でもそれは明らかだそうだ」 「冗談じゃないわよ……」 「エルフを敵視するのは、始祖ブリミルの歴史から見て仕方ない事だ。だが、ミス・ティファニアが虚無の使い手として生まれたのは、始祖のお導きだと主張すれば……」 「もしティファニアの存在が知られても、ロマリアを牽制できるかもしれない?」 ルイズの結論に、ウェールズが頷く。 「ティファニアか…その人は、争いが嫌い、復讐も嫌いなのか………それなのに、僕たちは人間同士で、何をやっているんだろうね」 ウェールズの呟きは、『サイレント』に包まれた部屋の中に消えていった。 一方、時を同じくして、魔法学院に一台の豪華な馬車がたどり着いた。 従者が馬車の扉を開け、金髪の女性が馬車の中から下りてくる。 馬車を出迎えたのは魔法学院の学院長オールド・オスマンと、モンモランシー、そしてシエスタだった。 「オールド・オスマン。お久しぶりでございますわ」 優雅に一礼した金髪の女性に、オールド・オスマンは満足そうに頷き、挨拶を返した。 「久しぶりじゃのう、アカデミーでは元気でやっておるかね?」 「ええ、オールド・オスマンの22年前の論文、読みましたわよ。精神力の根底を探る方法としての波紋法とその応用…でしたわね」 ちらりと横を見ると、先ほどから緊張のあまり固まっている二人が視界に入った。 「貴方がシュヴァリエを賜ったミス・モンモランシーと、ミス・シエスタね。噂は聞いているわよ」 「「はっ、はい!」」 二人は緊張して、同時に返事をしてしまう。 金髪の女性は、そんな二人にも一礼し、名を名乗った。 「私はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。 ラ・ヴァリエール公爵夫妻からの依頼を伝えに参りました。 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。 並びにシエスタ・シュヴァリエ・ド・リサリサ。 お二人の『治癒』の力をお借りしたく参りました。 私の妹、カトレアを助けるために協力をお願い致します」 シエスタは思った。 この人、ルイズ様の面影がある。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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キャラクター詳細 名前: ルイズ・マッケンジー 性別: 男 年齢(享年): 不明 自我の有無: 不明 ゾンビになった経緯: 明日のライヴのために自慢の長髪を整えようとモールの美容院に行く途中、突如現れた鼠に噛まれゾンビウィルスに一発感染してしまった。彼は気付かぬうちにゾンビへと変わり果てた・・・・。 特徴: ピクシブタウンのデスメタルバンド「カコリッチズ」のギターを担当している青年。生前はデスメタルを愛してやまないファンキーな青年だった。喧嘩が強く鍛えぬかれた肉体が自慢だった。ゾンビになってもその力はより強力に引き継がれている。ちなみに身長は2m30cm。 戦闘法: 近距離打撃など。 攻略法: とにかく頑丈な肉体をもち豪腕。接近戦は訓練された人間でないと戦うには辛いものがある。また大股で歩くので思った以上に移動速度が速い。いつの間にか間合いをつめられるかも。そこまで強力なゾンビではないが2mを超える身長は圧倒される。逃げながら落ち着いて遠距離武器で戦おう。弱点は頭。 メッセージ: カコリッチズをよろしく!byルイズ 関連群像劇 カコリッチズ(CACOLICHS)
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人生オワタの大冒険とは・・・ 生まれたときから終わっているひとそれが\(^o^)/オワタです 彼の先に待つものは一体・・・
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autolink ZM/WE13-04 カード名:揺るぎない信頼 ルイズ カテゴリ:キャラクター 色:黄 レベル:2 コスト:1 トリガー:1 パワー:5000 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《虚無》? 【永】応援 このカードの前のあなたのキャラすべてに、パワーを+X。Xはそのキャラのレベル×500に等しい。 【自】[①]あなたのクライマックス置場に「サモン・サーヴァント」が置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、あなたは自分の山札を見てレベル1以上の、《使い魔》?か《虚無》?のキャラを1枚まで選んで相手に見せ、手札に加える。その山札をシャッフルする。 ノーマル:わたし、信じてるもん。 サイトは絶対絶対、来るんだから! パラレル:ずっと、私のそばにいないと許さないんだから レアリティ:R illust.- 初出:電撃G sマガジン 2008年6月号 12/04/18 今日のカード。 CXシナジーを搭載したレベル応援。 シナジーの内容は1コストでの山札サーチ。 ネオスタンであれば《使い魔》?・《虚無》?共に対象も少なくない。 ゼロの使い魔には各色に大活躍?を持ったキャラが用意されているので、それらのサポートをしてやるのも良いだろう。 貴族の務め ルイズの経験を満たすために必要な1枚でもある。 そちらも《虚無》?を持つため、勿論CXシナジーでサーチが可能。 パラレル版はイラスト・フレーバー共に別。 ・対応クライマックス カード名 トリガー サモン・サーヴァント 1・炎 ・関連カード カード名 レベル/コスト スペック 色 備考 貴族の務め ルイズ 3/2 10000/2/1 黄